「もっかい殴られたいんか、お前」「なんぼでも来い」。人手不足が常態化する夜間の特別養護老人ホームで、ヘルパーと認知症の入所者との修羅場の一部始終を録音データがとらえていた。大阪市内の特養で男性ヘルパーから「殺すぞ」と言われたり殴られたりしたとして、元入所者の男性(77)が損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は7月、特養側に慰謝料60万円の支払いを命じる判決を言い渡した。地裁は原告側が提出したICレコーダーの音源をもとに暴行・暴言を認定したが、介護施設の過酷な実態を理由に高額賠償は避けた。超高齢化社会の日本で今、介護現場はどうなっているのか。録音には度重なるナースコールにいらだつヘルパーのこんな叫びも残っていた。「鳴らさんといて。頼むから」
ICレコーダーでひそかに録音
男性「もう8時過ぎとるやん」
ヘルパー「忙しいねん。○○さん(男性)だけじゃないねん、薬いるのん」
男性「偉そうな…」
ヘルパー「お前が偉そうに言うな、黙っとけ。(中略)早よせい。早よ開けろ、口」
男性「うわー、うわー。何でこんなんなんねん」
大阪市内の特養で平成21年8月31日夜、ヘルパーの男と入所者の認知症男性の間で繰り広げられたやりとりだ。男性の次男(41)が個室のベッドの近くにICレコーダーを置き、ひそかに録音していた。
ヘルパーは薬を飲む時間が遅れたことに抗議されていらだち、男性の口に無理やり薬を押し込んだ。男性がむせたことでパジャマに水がこぼれたが、ヘルパーはそのまま別の入所者のもとへ向かった。
男性はその後、10分間に計7回、立て続けにナースコールを鳴らした。ヘルパーはコールで呼び出されるたびに部屋に入ったが、男性が何を望んでいるのかは判然としなかった。