「1BTC=700ドル」「1BTC=650ドル」…。平成26年2月、貿易業で中国籍の湯順平さん(43)は、東京都内の事務所に置かれたパソコンの画面上で、急降下を続ける世界最大の取引所マウントゴックス社のビットコインの価格チャートを半ば呆然(ぼうぜん)としながら見つめていた。
湯さんは国内で仕入れた腕時計などのブランド品を中国に通販サイトで販売する社員2人の貿易会社を経営。中国での売り上げの大半をBTCに交換して国内に送信し、換金していた。
だが、マウント社に預けていたBTCは何度引き出し手続きを取っても進まない。預けた額は130BTC。当時の金額で700万~800万円。月の売り上げの7割にあたる金額だ。
焦った湯さんはマウント社が居を構える渋谷区のビルまで急行したが、1階にいたビル管理会社の受付の女性が「会社には通せない。要件をメモに書いてください」と言うばかり。「BTCの引き出しが必要なんだ。大事な資金なんだ」。そう訴えても、のれんに腕押し。同月末、マウント社は破綻を公表した。
「マルク・カルプレス容疑者が怪しいとは思っていた。何があったか説明し、少しでもいいから、早くカネを返してほしい」。湯さんはそう訴える。