平成25年9月、当時社長だった田中久雄氏は、副社長だった久保誠氏にこう切り出した。
「極秘の相談があります。少し『バイセル取引』を増やしたいと思っています」
バイセル取引とは、自社が大量に仕入れた部品を、製造委託先である海外メーカーに販売する取引だ。最終的に、部品を組み入れた完成品を引き取るため、取引で得た売上高や利益は相殺されるものの、一時的に利益を水増しすることができる。パソコン事業部門の営業赤字幅を圧縮するための不適切な取引だ。
「社長の決断ならば従いますが、私は取引に反対です」
久保氏は田中氏をこういさめた。だが、同年度も利益のかさ上げは引き続き行われたと第三者委員会の報告書は指摘する。
同様の取引は田中氏の前任の佐々木則夫氏時代にも行われた。当時、部品の購入を持ちかけられた海外メーカーのトップは、異常な取引だと指摘した。その上で「会計処理に疑義をもたれる懸念がある。そのリスクを覚悟した指示か」と問いただしている。