家族第4部 「拉致」に裂かれて(4)

娘抱く手すり抜け終わる夢 止まった時間、ぼやける顔

【家族第4部 「拉致」に裂かれて(4)】娘抱く手すり抜け終わる夢 止まった時間、ぼやける顔
【家族第4部 「拉致」に裂かれて(4)】娘抱く手すり抜け終わる夢 止まった時間、ぼやける顔
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 日本にはいないはずの娘の姿がそこにあった。

 「何しよったん」。大政(おおまさ)悦子(74)が愛媛県伊予市の自宅の玄関先に立つ長女の由美(48)に呼びかけると、娘は困ったように笑っていた。「なんか手違いがあって帰るのが遅くなった」。何でもないように話す由美。腹立たしい気持ちもあったが、とにかくうれしさがこみ上げ、悦子は娘に駆け寄った。抱きしめようと伸ばした手は由美の体をすり抜けた。夢はいつもそこで終わる。

 由美は平成3年3月、韓国南東部の慶州で行方不明になった。当時23歳。三重大を卒業後、考古学の道に進むことを決意し、単身韓国へ渡った。旧跡を訪ねる旅の途中だった。

 北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者について調べている「特定失踪者問題調査会」は、由美を「拉致濃厚」の特定失踪者としてリストアップしている。

 失踪から24年。あれだけ何度も見ていた夢も最近では見なくなった。「もう由美ちゃんの顔もぼやけている。もし帰国したとしても、今の顔を見て分かるかどうか…」。悦子の中では、由美の姿は今も23歳のときのままだ。「時間が止まっているのよね」。多くの拉致被害者家族や特定失踪者家族と同様、悦子もまた肉親と時間を奪われ、取り戻せていない。

虫の知らせ

 由美は5つ年上の兄と7つ年下の弟に挟まれた3人きょうだいの真ん中、大政家唯一の娘として育った。子供の頃から活発で好奇心旺盛。家族で出掛けた先でも興味の赴くまま一人で歩き回った。平成24年に亡くなった父親の峰男=当時(78)=がいつもその後を追いかけていた。

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