家族第4部 「拉致」に裂かれて(4)

娘抱く手すり抜け終わる夢 止まった時間、ぼやける顔

 「興味のあることには目をらんらんと輝かせて、どこまでも追いかけていく。大きくなってからも変わらなかった」と娘の性格を振り返る悦子。大学受験も誰に相談することなく、理系から文系に志望を変え、三重大人文学部に進んだ。

 大学卒業後の進路を決めたときもそうだった。卒業間近の3年1月に帰省した由美は「考古学をやりたい」と言って、大学院への進学を宣言した。

 アルバイトで稼いだお金も服ではなく、勉強用の書籍購入に充てていた。その様子を知っていた悦子は「結婚しておとなしく家庭に入るような子じゃない」と賛成した。反対するかと思っていた峰男も娘の選択を認めた。

 両親の同意を得て肩の荷が下りたのだろう。大学のある三重へ戻るため、自宅最寄りの駅から電車に乗った由美は、それまで見たことのないような笑顔を浮かべ、両親に手を振った。

 「わが子ながら本当にかわいいなあ」。由美の屈託のない表情を見て、無性にいとおしさがこみ上げた。

 だが、ホームから遠ざかっていく電車を見送りながら、心の中に不安が湧き起こっていた。「二度と会えないのではないか」。今から思えば虫の知らせだったのかもしれない。それが最後に見た、まな娘の姿となった。

韓国で失踪

 「卒業旅行で韓国に行く。古い建物を見にいきたい」。3年3月下旬、由美は突然、実家に電話してそう告げた。外国に行くことを心配には思ったが、娘の性格を考えると止めても無駄なことは分かっていた。帰国したら必ず連絡を入れるよう、それだけは口を酸っぱくして伝えた。

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