芥川賞・直木賞

選考の舞台裏、教えます

 16日に発表された第153回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)は、芥川賞が羽田圭介さん(29)の「スクラップ・アンド・ビルド」と又吉直樹さん(35)の「火花」の2作に、直木賞が東山彰良(あきら)さん(46)の『流(りゅう)』に決まった。同日夜に東京・築地の料亭「新喜楽」で行われた選考の経緯と講評を紹介する。

芥川賞・又吉直樹さん「火花」/羽田圭介さん「スクラップ・アンド・ビルド」

■まさに火花散る関係

 芥川賞は例年よりやや長い約2時間半の選考を経て、又吉さんの「火花」(文学界2月号)と羽田さんの「スクラップ・アンド・ビルド」(文学界3月号)の2作が頭一つ抜け出す形で選ばれた。選考委員を代表して会見した山田詠美さん(56)は「受賞2作と滝口悠生(ゆうしょう)さん(32)の『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』(新潮5月号)の3作で決選投票が行われ、同点だった2作の受賞が決まった」と選考を振り返った。

 初候補で受賞した又吉作品は、若手お笑い芸人2人が理想の笑いを追求していく物語。山田さんは「どうしても書かざるを得ない切実なものが迫ってくる感じで、主人公と先輩の、まさに『火花』が散るような関係がよく書けていた」と称賛。会話文などの言語感覚についても好評を得た。

 一方、候補4回目の羽田さんの作品は、失業青年と同居する要介護老人との攻防をユーモラスに描く。「主人公のバカみたいなところが魅力的に描けていて、独特の魅力にあふれた小説。新しい形のホームドラマを作り上げたという意見もあった」と、又吉さんに劣らぬ支持を集めた。

 受賞2作に次いだ滝口作品は「時間軸をうまく使っていて青春小説としても読めるし、すごく好感度が高い。しかし読後に残るものがなかった」と、惜しくも選外に。残る3作のうち、高橋弘希さん(35)の「朝顔の日」(新潮6月号)は「これまでサナトリウム小説はさんざん書かれており、なぜこの題材を取り上げるのかが伝わってこなかった」。島本理生さん(32)の「夏の裁断」(文学界6月号)については「心に引っかかる人たちを描き出す力量は評価を得たが、旧作にもっといいものがある、という意見が出た」。内村薫風さん(45)の「MとΣ」(新潮3月号)は「頭で作った小説。着眼点は良いが、それを生かせていない」と、いずれも高い評価は得られなかった。(磨井慎吾)

直木賞・東山彰良さん「流」

 ■根底から力ある傑作

 直木賞は最初の投票で、東山彰良さんの受賞作『流』(講談社)が、圧倒的な支持を得た。ただ、選考会後に会見した選考委員の北方謙三さん(67)によると、他の候補作についても「今回は非常に豊穣(ほうじょう)な回。言いたいことはすべて言い、論議を尽くした」ため、選考には約2時間半を要した。

 受賞作について、北方さんは「根底からの力がある20年に1度という傑作。台湾の複雑なるものをちゃんと見てきた人で、しかも戦争を視野にとらえている。反戦を書こうというものは小説ではないが、『流』にあるのは『人間としての思想』だ」と絶賛。自身のルーツである台湾を主な舞台に、1975年に起きた祖父の死の謎を追う物語は「普遍的な力を持つ小説」と高い評価を受けた。

 東山作品に次ぐ得点を得たのが、澤田瞳子さん(37)の『若冲(じゃくちゅう)』(文芸春秋)だ。北方さんは「実在の人物をモデルにしているため、その人生に対する解釈が気に入らないという声があった」と報告。馳星周さん(50)の『アンタッチャブル』(毎日新聞出版)は従来のノワール小説とは一線を画す公安警察を舞台にしたコメディーで、北方さんが「新境地」と強く推したが、他の選考委員の賛同を得られなかった。

 一方、他の3作品は最初の投票で選外に。門井慶喜さん(43)の『東京帝大叡古(えーこ)教授』(小学館)については、「非常に博覧強記だが、それをもう少し小説的に書いてほしい」。西川美和さん(41)の『永い言い訳』(文芸春秋)は「人物が平板で、深いところまで手を突っ込んで人間のありようを書いていない」と評された。

 柚木麻子さん(33)の『ナイルパーチの女子会』(同)は、今年の山本周五郎賞受賞作でもあり、綿密な論議が交わされた。だが「きちんとまとまっているが、何か類型のようなものがある」とされ、支持は得られなかった。(戸谷真美)

 ■直木賞選考委員

 浅田次郎、伊集院静、北方謙三、桐野夏生、高村薫、林真理子、東野圭吾、宮城谷昌光、宮部みゆき

 ■芥川賞選考委員

 小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、高樹のぶ子、堀江敏幸、宮本輝、村上龍、山田詠美(敬称略)