私の時間 シネマ

想像超えた〝人の壊れ方〟 兵士が極限状態で見たものは…「野火」塚本晋也監督

 「前向きに生きようとすると本能の固まりになる。やがて常人ではない領域に入ることも。生々しく感じたことを自分の体に染みこませ、映画で表現した」

“いいトラウマ”なれば

 資金が集まらずに頓挫しかかっていた3年前、一念発起。「形にできない作り手の危機感と、戦争へ向かう世になっていないかという危機感で。一人でできることから始めようと」。脚本を書き、そこから「パズルをはめるように効率よく撮れる方法を考えた」。小道具や美術も創意工夫を重ねた。フィリピンでの撮影は現地2人を含めた6人で。国内は沖縄や埼玉などでボランティアスタッフと行った。

 リアルな描写は海外で賛否があった。「やり過ぎとも言われたが、避けては戦争の恐ろしさは描けない。原作に寄り添いました」。実際の体験談は映画をはるかにしのぐそう。「恐らく核心は聞けていないでしょうし。まだまだ、と思いながら撮っていました」

 戦後70年の今年に上映するのは偶然だが必然とも。映像を含め、主人公の目線で描かれる作。「彼と一緒に戦場を体験してほしい。笑顔で見終わる映画じゃないが、2日ぐらい重い気持ちになった後(笑)、周囲と話す題材にしてほしい。いいトラウマになれば」

 昭和35年生まれ。宿題で一度、幼い頃に戦争を経験した両親に話を聞いた。疎開した母はシラミの苦労を、父は福井で空襲から逃げるときカバンの中の空の弁当箱がカタカタ鳴ったことを細かく描写した。今も鮮明に覚えている。

 父は3年前に他界。その遺産を今作に投じた。先日、中学生になった息子がこの映画で、父の監督作を初めて見た。「まだ感想を聞いていないけど。いい顔になったんですよ」。平和の思いはつながっていく。(橋本奈実)