びくびくする標的たち
命を狙われているのは、熊の情婦けいを寝取った菅沢寅松(25)、もう1人の情婦の高橋はな(27)、はなを熊から預かったもののはなが本当に好きだった男とあいびきするのを許した旅人宿業、土屋忠治(41)。さらには、熊が傷害・脅迫罪に問われた際に関わった向後巡査である。
そのうちの1人、土屋忠治は、早く捕まってくれと気が気でない。熊の出現情報を元に、捜査隊本部は繰り返し山狩りをするが発見できない。それでも、時々、土屋の家の近くに出現するため、忠治は極度の恐怖にかられ、家の周囲に丸太のくいを打ち、これに針金を張り巡らされて厳重な防御を行った。
熊の逃走を村ぐるみで手助けしていることも、警察をいらだたせている理由の一つだ。ある朝、熊狩り中の捜索人が、熊の恋敵である寅松を保護している菅沢茂平方付近の念仏坂脇にある高さ1メートルの崖下で、雑草に隠れて1台の自転車が捨てられているのを発見。見ると荷台には、1升余りのつきたての餅が小豆色の木綿風呂敷に包んであり、自転車は車体番号が削られ泥が塗られていた。これが熊次郎に与えようとしたものであれば、熊が食物をあさりにあまり現れない理由も説明がつく。
焦る警察、しぶとい熊、恐れる標的…周辺の住民の緊張も限界に達している。(原田成樹)
=敬称略