その他の写真を見る (1/7枚)
ほかの男と親密な仲になった情婦ら2人を殺し、千葉の山中に隠れて神出鬼没、警察官も殺した岩淵熊次郎(35)。熊には、まだまだ数人は恨みを晴らしたい人物が娑婆にいる。捜査本部も犯人をおびき寄せるため、これらの標的に現地にとどまらせ、周辺を監視する作戦を続けた。熊と警察との攻防は日本中に報道され、警察トップの内務省警保局長も苦々しい思いを隠さない。
鬼熊、熊公、岩熊…
殺人事件が起きた大正15年8月20日以降、失恋による恨みを晴らそうと、警察の包囲網をかいくぐって出没する様子が連日報道され、今や日本一の人気者となった殺人犯。鬼熊、熊公、岩熊、熊次郎とさまざまなニックネームで呼ばれ、話のネタとなった。
9月21日に開かれた、全国警察の総元締めである内務省警保局(現在の警察庁)の松村義一局長と記者団との会見でも話題となった。
記者 熊は日本一の人気者になりましたね。お湯屋でも床屋でも熊公の噂で持ちきりですよ。銀座で熊公伝を売っているが羽が生えて飛んでいますよ。
松村局長 へえ、そんなに売れるのですか。
記者 それから子供が熊公ごっこをはじめたそうですよ。
松村局長 そりゃ君、新聞があまり書き立てるせいだよ。
記者 あなたは、この前もいつかそんなことを言われたが、熊公を有名にしたのは仰々しい警官隊の勇敢な活動のおかげですよ。
松村局長 だが警官隊の山狩りは前後1回だけですよ。それも300名だけさ。