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教養より「実務技能」重視 経営共創基盤CEO・冨山和彦氏に聞く

インタビューに応じる冨山和彦氏 (野村成次撮影)
インタビューに応じる冨山和彦氏 (野村成次撮影)

 ■グローバル型・ローカル型 大学複線化を

 政府の大学改革に経営共創基盤CEO、冨山和彦氏の提言が反映されている。大学を世界で勝負するグローバル(G)型と、地域人材を育成するローカル(L)型に分ける主張は、ほぼ政府方針に盛り込まれ、L型大では「実学」移行が図られる方向だ。「全てを東京大学からピラミッド状に考える悪習を脱しなければ、再生はない」と、高等教育の複線化を訴える冨山氏にインタビューした。(編集委員 平山一城)

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 --国立大を3つの枠組みに分類する方針が示されました

 「地域貢献、世界・全国的教育研究、世界的卓越教育研究の3分類〈表〉ですね。私の主張するG型、L型の分類に近いものです。ただ、世界レベルの学術研究に力を入れるG型は10校ほどでいい。米国でも、そうした総合大学は10校程度、英国ではオックスフォードとケンブリッジの2校だけです。日本では7つの旧帝大と他の数校で十分です。それ以外の大学はL型か、一部の研究領域に特化したグローバルニッチ型に進むべきです。文部科学省は、人文社会科学系の学部・大学院の廃止、社会的要請の高い分野への転換にも取り組むよう通知しています。これも、わが意を得たり、というのが率直な感想です」

 ◆大半「職業訓練校」に

 --昨年秋の提言、その波紋は大きかったですね

 「文科省が実践的な職業教育をテーマに有識者会議をつくり、私も呼ばれました。第1回会合に合わせて提出した持論がネットに公開されて騒ぎになりました。専門学校をどうするかが会議のテーマでしたが、実は日本の高等教育の問題は違うところにある。専門学校は自由競争で、いい学校の卒業生は就職率も大学より高い。ダメな学校は淘汰(とうた)されます。私は、日本の大半の大学こそ、高度職業訓練学校になるべきだと考えているのです。いまや大学進学率は6割近く、ほとんどは卒業して職業人になるのに、日本の大学は学術的な一般教養に偏り、時代にかみ合っていないのです」

 「たとえば、経済・経営学科系では高尚な戦略論ではなく、簿記会計技能をたたき込む。法学部は憲法や刑法よりも、宅建や大型第二種免許を取得させる。工学部では機械力学や流体力学よりも、最新鋭の工作機械の使い方やウェブ系プログラミング言語。文学部はシェークスピアではなく、観光業で必要な英語を教えればいい。要するに学問より実践力です。企業に一括採用され、ローテーションでいろいろな仕事を経験する雇用システムが機能したころは、大学で広く浅く教養を身につけ、職場で必要な技能は会社に入ってからでよかった。しかしIT化やグローバル化が進み、そうした仕組みは過去のものになったのです」

 ◆「常識」欠ける大学人

 --大半の大学は実学重視に転じるべきだ、と…

 「本当にアカデミズムを追求できる大学も必要です。それもグローバルで競争できるレベルであってほしい。理系なら世界一の技術開発、文系なら世界のルールを日本に有利に決められるような人材の輩出です。しかし、多くの学生が本音で学びたいのは実践力の方でしょう。企業も平均的な学生に期待するのは実践力ですから、就職にも有利です。このシフトに取り組み、就職実績も偏差値も上がる私大が出てきています。G型とL型は、その上下ではなく、大学を同じ次元で議論することはやめよう、と言いたいのです。明治以来、日本人は地方から東京へ、そして世界へと考えてきました。高等教育も東大を頂点にした単線構造がまだ続いています。そういう考え方を打破しなければ、社会を変えることはできないのです」

 --最近は逆に、教養教育の重要性が言われます

 「アカデミズムから私への反論で、『すぐに役立つ技能はすぐ役に立たなくなる』というのがあります。しかし具体例は聞いたことがありません。簿記会計は、企業の活動を計量的に記述するビジネス世界の基礎言語であり、これなしに企業活動や経営について考えることはできません。その基本構造は数百年にわたって変わっておらず、すぐに役立ち、これからも長く役立つことは間違いありません。実学的な基礎技能こそが、教養中の教養なのです。大学でこのシフトが進まないのは、実務訓練を見下しているからです。おかしなプライドが、役に立たない学生の大量放出をもたらしている。現実を知ろうとしないアカデミズムの人たちこそ、『常識に欠ける』と言いたい。いま法曹、公務員、会計士などを目指す学生の多くが大学と並行して、専門予備校に通っている現実こそ恥じるべきです」

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 ≪政府の大学改革方針≫

 ■国立大86校への運営費交付金をメリハリある配分に。各大学の進む方向について「人材育成や課題解決で地域貢献」「強みある分野で全国的、世界的な教育研究」「世界で卓越した教育研究」の3分類から1つを選んでもらい、改革計画を評価して判定する。

 ■教員養成系や人文社会科学系学部・大学院の廃止や社会的要請の高い分野への転換。各大学がミッションの再定義で示した強み・特色・社会的役割を踏まえ、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保などの観点を考慮して速やかな組織改革に努める。

 ■技術革新を担う人材育成のため、新興企業などとの連携を容易にする「特定研究大学」、専門人材を集める「卓越大学院」制度の創設。企業との共同研究で大学発の起業を促進する。授業料の減免などで国内外から世界的な研究開発に携わる人材を発掘する。

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【プロフィル】冨山和彦

 とやま・かずひこ 企業の経営改革や成長支援に携わる経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO。東京大学法学部卒。在学中に司法試験合格。スタンフォード大学MBA。産業再生機構COOを経て現職。1960年生まれ。