浪速風

なぜ子供を犠牲にしたのか

向田邦子さんに教科書にも載った「字のない葉書」という作品がある。終戦の年の4月、小学1年の末の妹が学童疎開することになった。父はおびただしい葉書に自分宛の宛名を書き、「元気な日はマルを書いて、毎日一枚ずつポストに入れなさい」と言い聞かせた。妹はまだ字が書けなかった。

▶1週間ほどで届いた葉書には赤鉛筆ではみ出すほどの大きなマルが書いてあった。ところが、次の日からマルは急激に小さくなり、ついにバツに変わった-。この場面で父親の胸中を察して涙腺が緩む。単身赴任は逆に父親が家族から一人離れて暮らすが、小欄も子供たちがどうしているかが気になった。

▶大分県杵築市で自宅に放火した海上自衛官は8人の子だくさんだった。単身赴任先から帰宅して、きっと楽しい団欒(だんらん)があっただろうに。それがどうして暗転したのか。「字のない葉書」の父は帰って来た妹の肩を抱いて泣く。時代は変わっても親の心情は変わらないと思うが。