【累犯障害者】長崎モデルの明暗(5)「刑務所に入れて更生にどう役に立つ」 刑罰か福祉かを超えて…問われるのは社会の「情」

社会福祉法人「山陰会」で職員(右)と談笑する20代の入所者男性=長崎県南島原市

 社会福祉法人「南高愛隣会」(長崎県雲仙市)の取り組みには、法務・検察当局も注目する。長崎地検の幹部がこう打ち明けた。

 「刑罰が理解できるのか、刑務所に入れて更生にどう役に立つのか。疑問を持たざるを得ない容疑者や被告はいる」

 「累犯障害者」を司法手続きのレールに乗せるだけで、再犯は防げるのか。刑務所以外での処遇を模索する法務・検察当局の意識もまた、長崎から芽生えた。

 地検が重視するのは、福祉施設で刑務所に代わる適切な矯正教育が行われているかどうかという点だ。南高愛隣会の施設見学や担当者との協議を繰り返し、知的障害のある容疑者や被告を起訴猶予としたり、執行猶予付きの判決を求刑したりする体制を、平成24年までに整えたという。

 軽微な犯罪で、被害が回復され、被害者が処罰を望んでいない、という条件は付ける。弁護人には更生に向けた支援計画書の提出を求め、本人にも計画を守ることを書面で確約させている。地検幹部は「南高愛隣会のおかげで『長崎モデル』は機能している。逆に言えば、しっかりした福祉施設が増えないと全国には広がらない」と話す。

南高愛隣会の外へ

 「いつか家に帰って今まで通りの生活に戻りたい」。軽度の知的障害を持つ20代の男性は、再出発への希望を口にした。

 男性は24年、バスの車内で酒に酔って女性の体を触り、長崎県警に逮捕された。不起訴になり、南高愛隣会が運営する更生保護施設「雲仙・虹」で生活しながら、トレーニングセンター「あいりん」で罪と向き合う矯正教育を受けた。

 昨年8月、別の社会福祉法人「山陰(やまかげ)会」(同県南島原市)のグループホームに移ってきた。現在は共同生活を送りつつ、農作業などの職業訓練を受けている。

 男性は、山陰会が南高愛隣会の依頼で受け入れを始めた最初の累犯障害者だ。その背景を、施設管理者の本田崇一郎さん(35)は、図らずも「情」の福祉に通じる言葉で説明した。

 「再犯のリスクや他の利用者への悪影響ばかり心配すると、行き場がなくなる。手を差し伸べる気持ちが本人に届けばいい」

 南高愛隣会も支援を後押しする。職員は男性に「いつ戻ってきてもいい」と声をかけ、本田さんにも「何か問題が起きれば、すぐ行きます」と約束している。

計り知れない影響

 最長2年間、社会から隔離して生活させる国立「のぞみの園」(群馬県高崎市)や、民間の視点で独自の自立訓練を行う刑務所「播磨社会復帰促進センター」(兵庫県加古川市)、そして長崎地検と山陰会。南高愛隣会が福祉関係者や法務・検察当局に与えた影響は計り知れない。

 それは、累犯障害者の再犯防止と社会復帰を、もはや刑罰か福祉かという二者択一で考える時代でなくなったことも意味している。

 精神年齢が4歳7カ月と鑑定された京都市内の男(38)。自動車盗を繰り返して10代のころから計7回服役しても、福祉の支援を受け続けても、車に乗りたいという欲求を抑えることはできなかった。

 7月10日に控訴審の判決が言い渡される常習累犯窃盗事件で、1審通り懲役1年10月の実刑が確定すれば、前回事件の確定判決(懲役2年)と合わせ、刑期は3年10月。拘置所での勾留日数が差し引かれると、3年以内に社会に戻ってくる計算だ。

 そのとき、刑罰や福祉に任せ切りにするのでなく、社会で生きるだれもが男に手を差し伸べることは、できるだろうか。問われるのは、私たちの「情」なのかもしれない。  

=おわり

 連載は小川原咲、吉国在、小野木康雄が担当しました。

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