社会福祉法人「南高愛隣会」(長崎県雲仙市)の取り組みには、法務・検察当局も注目する。長崎地検の幹部がこう打ち明けた。
「刑罰が理解できるのか、刑務所に入れて更生にどう役に立つのか。疑問を持たざるを得ない容疑者や被告はいる」
「累犯障害者」を司法手続きのレールに乗せるだけで、再犯は防げるのか。刑務所以外での処遇を模索する法務・検察当局の意識もまた、長崎から芽生えた。
地検が重視するのは、福祉施設で刑務所に代わる適切な矯正教育が行われているかどうかという点だ。南高愛隣会の施設見学や担当者との協議を繰り返し、知的障害のある容疑者や被告を起訴猶予としたり、執行猶予付きの判決を求刑したりする体制を、平成24年までに整えたという。
軽微な犯罪で、被害が回復され、被害者が処罰を望んでいない、という条件は付ける。弁護人には更生に向けた支援計画書の提出を求め、本人にも計画を守ることを書面で確約させている。地検幹部は「南高愛隣会のおかげで『長崎モデル』は機能している。逆に言えば、しっかりした福祉施設が増えないと全国には広がらない」と話す。
南高愛隣会の外へ
「いつか家に帰って今まで通りの生活に戻りたい」。軽度の知的障害を持つ20代の男性は、再出発への希望を口にした。
男性は24年、バスの車内で酒に酔って女性の体を触り、長崎県警に逮捕された。不起訴になり、南高愛隣会が運営する更生保護施設「雲仙・虹」で生活しながら、トレーニングセンター「あいりん」で罪と向き合う矯正教育を受けた。
昨年8月、別の社会福祉法人「山陰(やまかげ)会」(同県南島原市)のグループホームに移ってきた。現在は共同生活を送りつつ、農作業などの職業訓練を受けている。