1952年に中国で発行された中学生用の歴史教科書によれば、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ネパール、シッキム、ブータン、ビルマ、ベトナム、ラオス、カンボジア、台湾、琉球、朝鮮、ロシアのハバロフスク州、沿海州、樺太などが、帝国主義者に奪われた中国の領土である。
≪軍事力のない東南アジア≫
中国は、米軍が中国軍を圧倒する軍事力を保持していることを理解し、米軍との直接衝突を避ける傾向がある。したがって、「奪われた領土」に含まれる周辺国家にとって、米国との関係は安全保障上のキーポイントである。
また、米国に次ぐ軍事大国であり軍事力行使を躊躇(ためら)わないロシアとの軍事的対決も中国は避けている。中央アジア諸国は軍事小国であるが、ロシアと関係が深く、中央アジア方面への軍事的進出はロシア軍の介入という大きなリスクを覚悟しなければならない。軍事大国であり軍事力行使を躊躇(ちゅうちょ)しないインドに対する軍事的進出もリスクは大きい。
他方、海での勢力拡大は、陸上での勢力拡大よりも目立たずコストが低いと中国は考えている。東シナ海に進出した場合の相手は日本であり、南シナ海に進出した場合の相手は東南アジア諸国である。日本は大きな軍事力を持っているが、戦争する意志薄弱な国である。東南アジア諸国は中国に抵抗する軍事力を持っていない。但(ただ)し、日本と米国の間には軍事同盟があり、日本を攻撃すれば米軍との直接衝突になる可能性がある。