精神科女医のつぶやき

片田珠美(144)元少年A、なぜ彼は書いたのか

事件後、少年Aが収容された関東医療少年院=東京都府中市
事件後、少年Aが収容された関東医療少年院=東京都府中市

 平成9年に神戸市で起きた連続児童殺傷事件の犯人である元少年A(32)の手記『絶歌』(太田出版)が出版され、物議を醸している。もちろん、彼が心から罪を悔い反省しているのか、そして匿名で、しかも被害者遺族の承諾も得ずに本を出すことが許されるのか、という批判があるのは当然だ。

 ただ、私は本書を読んで、「書きたい。書かずにはいられない」という情熱のようなものを行間から感じずにはいられなかった。

 これは、精神鑑定で「性的サディズム」と診断されたように、Aが性倒錯者だからかもしれない。彼は、亡き祖母の部屋で経験した精通の快楽に取りつかれて〝冒涜の儀式〟を繰り返し、やがて性的な衝動に突き動かされて猫を殺すようになった。だが、猫殺しによる快楽では満足できず、人を殺害するに至っている。典型的な性倒錯者である。

 性倒錯の殺人犯として思い起こされるのは、1981(昭和56)年に起きたパリ人肉事件の佐川一政氏である。Aが事件を起こした頃、私はパリに留学中で、この事件はフランスでも大々的に報道された。興味津々でいろいろ尋ねてくる同僚たちは、最後に必ず、「日本に帰ったと聞いたけど、どうなったの?」と佐川氏の消息についての質問を付け加えた。彼は事件後、一時パリの病院に入院していたこともあって、とくに精神科医の興味をかき立てたようだ。佐川氏もそうだが、サディズムの元祖として名高いサド侯爵も、多くの著作を残している。