一筆多論

スー・チー氏は「リアリスト」か 宇都宮尚志

 一方、今回の訪中には国際社会から、スー・チー氏が中国の民主化と人権問題に言及することへの期待が高まった。中国にはスー・チー氏と同様にノーベル平和賞受賞者である民主化活動家、劉暁波氏が当局に収監されている。しかし彼女が訪問中、これについて言及したとの報道はなかった。

 むしろスー・チー氏としては、来る総選挙での経済界や華人の票を期待し友好を深める狙いがあったとされ、中国との接近ぶりを強く印象づける結果となった。

 中国にとってミャンマーは地政学的にも重要な国である。インド洋にアクセスするための経済・安保戦略上の「回廊」であり、中国が経済圏の構築を目指して進める「シルクロード構想」の拠点のひとつだ。国民から絶大な人気のあるスー・チー氏との関係を強めることは、ミャンマーをつなぎ留めておくうえで大きな意味がある。

 それにしても、スー・チー氏の「人権派のシンボル」としての存在は、すっかり影をひそめてしまったかのようだ。ミャンマーで迫害される少数民族ロヒンギャ族の難民問題についても、人権擁護の声をあげることはなく、国際社会の失望を生んでいる。

 共産党の機関紙で人民日報系の環球時報は「スー・チー氏は中国の良い友人となるだろう」と論評した。

 スー・チー氏が民主化よりも政治的利益を優先させているのだとすれば、本当に中国に取り込まれる恐れがないともいえない。(論説委員)

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