2020(平成32)年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場(東京都新宿区)の建設計画が迷走している。総工費が当初予定よりも1000億円近く膨らみ、政府は急きょ東京都に一部の費用負担を求めているが、都側は「負担の法的根拠がない」と猛反発し、着地点が見えない状態が続いているのだ。国と東京都が非難合戦を展開する泥仕合は、国際的な信用を低下させかねず、首相官邸サイドからは「戦犯は誰だ!」と怒りの声が漏れる。そもそもは整備計画の見通しの甘さが招いた事態だが、問題がより複雑化した背景を探ると、五輪開会に向けた複雑な事情も浮かび上がる。
「世界から笑われる」
「早期に事態収拾できなければ世界から笑われる。これは日本の信用にかかわる問題だ」。下村博文文部科学相が計画を見直す考えを舛添要一都知事に伝えた5月18日の夜、安倍晋三首相の側近は怒りを隠せなかった。
この日の会談で、下村氏はフィールド部分を覆う開閉式屋根の設置を大会後に先延ばし、8万人収容の観客席のうち可動式の1万5000席分を仮設にする案を説明。整備費の一部約500億円を都側に負担するよう求めた。これに対し、舛添氏はおもむろに不快感をあらわにしたのだ。