昭和初期の貴重な木造建築である鎌倉市立御成(おなり)小学校(同市御成町)・旧講堂をめぐり、市が揺れている。老朽化に加え、屋根材にアスベストが含まれていることが市の調査で判明。市は撤去か保存かの方向性を、夏休みが始まる7月下旬までに決めることにしているが、撤去に反対する市民の声も根強く、結論に至るには紆余(うよ)曲折がありそうだ。(古川有希)
旧講堂は昭和8年、鎌倉御用邸跡地に建てられた。延べ面積は約690平方メートルで、屋根の上に2つの塔屋を乗せた風格あるデザインや和風と洋風のテイストを融合させた構造が特徴だ。12年には、米国の社会福祉活動家、ヘレン・ケラーさんが講演を行った場所としても知られる。
だが、平成10年に同小の新校舎が完成した後は放置された状態が続き、市は対応を迫られていた。
今年1月には、市から委託された建築事務所が旧講堂の現況を把握するための調査を実施。3月にまとまった報告書は今月12日の市議会で公表され、22日の市議会常任委員会でも議論された。
報告書によると、屋根の劣化が進んでおり、「緊急に対応しなければ、建物自体の劣化が著しく進行する」といい、建物の一部の耐震性能が不足していることや、屋根のスレート材にアスベストが含まれていたことも明らかになった。
報告書を受け、松尾崇市長は市議会で、撤去も含めた今後の方針を夏休み前に出す方針を示した。担当する市学校施設課は、「7月20日ごろ」をリミットと想定し、庁内で議論を煮詰めている最中だ。撤去、保存のどちらを選択しても関連費用が発生するため、9月議会に補正予算案を提出する運びになりそうだ。
一方、撤去に反発するのが地元住民らだ。市民団体「御成小講堂の保全活用をめざす会」の会員で、同小に通っていたという野村和代さんは「なぜ危険な状態になるまで放置していたのか理解できない」と、市の不作為を指摘する。
さらに、「(旧講堂などを)きちんと保存すれば、次世代に鎌倉の美しい文化遺産を引き継ぐことができる。歴史ある素晴らしい環境で育った子供は、その価値を無意識のうちに分かっていると思うし、鎌倉の未来にはそういうことが最も重要と考えている」と強調する。同会では近々、保存を求める署名活動を始めるという。
同課は「市民の意見も聞きながら方針を決定していきたい」としており、市の判断が注目されている。