「枕営業」なら性交渉をしても、客の妻への不法行為にならない-。昨年4月に東京地裁で言い渡され、確定した判決の内容が話題を呼んでいる。従来の判例では、既婚者と分かって性交渉をすればその配偶者に対し不法行為で慰謝料の支払いが命じられてきたが、今回の判決はこの枠組みを真っ向から否定しているからだ。どういう理屈でこの判決が生まれたのだろうか。
「新判例をつくる」と裁判官
「ちょっと待ってください。なぜですか」
原告代理人の青島克行弁護士は、判決を残して裁判を終えると突然宣告した始関(しせき)正光裁判官に食い下がった。昨年3月、東京地裁の法廷で繰り広げられた一幕だった。
「原告の主張が成り立たないからです」と始関裁判官。「議論する気はない。判決文に全部書く。不服があれば上訴すればいい。私は新判例をつくるつもりだ」と述べ、法廷を後にしたという。
昨年2月に第1回口頭弁論があり、証人尋問も実施されずわずか2回の審理で打ち切られた。
この裁判は、銀座のクラブのママが客の男性と約7年間にわたり不倫していたとして、男性の妻がママを相手取り400万円の損害賠償を求めていた。