亀岡典子の恋する伝芸

名人に聞く 京舞井上流五世家元・井上八千代さん(下)カリスマの四世を目指しつつ自分の舞を作っていく

凛とした着物姿でインタビューに答える井上八千代さん=京都市東山区
凛とした着物姿でインタビューに答える井上八千代さん=京都市東山区

 能と京舞が同居する日本で唯一の家に生まれ、幼いころから京舞ひと筋に歩んできた井上流五世家元、井上八千代さん。その端正で美しい舞は、京都の伝統芸能を体現するものといえる。今回は、八千代さんを導いた祖母で文化勲章受章者、四世井上八千代さんの思い出もうかがいつつ、八千代さん自身の歩んできた道、日本舞踊の未来などを語っていただいた。今回は下の巻。

重圧克服させた舞の魅力と祖母の舞姿

 --お祖母様の四世の舞をどのように感じていらっしゃいましたか。

 八千代 三世八千代が作ったもので四世が舞ってよかったものが私には印象深いですね。でも、私は祖母を目指しつつ、もう少し、自分のためのものを作っていった方がいいかなと思っています。ただ、うちのレパートリーは地味なものが多いので、これからの時代は難しいと思うこともありますね。

 --八千代さんは子供の頃から京舞を継ぐことが運命づけられていたと思うのですが、そういうなかで悩みや葛藤はありませんでしたか。

 八千代 ないことはなかったですね。1回目は20代前半。これを職業にすることが定められていても、これでいいのかなと悩んだことがありました。2回目は、祖母が90代になり、五世八千代の名跡を継ぐことが現実的になってきたときです。祖母は80代の終わり頃から「名前を譲る」と言うていましたが、そんなことを考えもできないぐらい元気でした。ところが90代に入ると、現実味を帯びてきた。それはプレッシャーでしたね。

 --どういう意味のプレッシャーですか

 八千代 四世はご存じの通りカリスマ性があった人ですから、自分は及びもつかないのはわかっていましたが、それでも何とかやっていけるかどうか、悩みました。また、こういう時代の変化の中で、日本舞踊がどうなるかという不安もありました。