【ロシアウオッチ】プーチン大統領を「虜」にした男…露第2の実力者はチェチェンの元ゲリラ

 ロシアで今、ウラジーミル・プーチン大統領(62)に次ぐ「第2の実力者」と半ば真面目にささやかれる人物がいる。ラムザン・カディロフ氏(38)。ソ連崩壊後、ロシア連邦中央と2度の独立紛争を経た南部チェチェン共和国の首長だ。1999~2002年の第2次チェチェン紛争後、独立派ゲリラ出身のカディロフ氏を政権に据えたのはプーチン氏だが、今やチェチェンがロシアを翻弄していると指摘されている。(SANKEI EXPRESS

異色のチェチェン首長

 プーチン氏が今月、1期目の大統領に就任してから15年の節目を迎えるのを前に放映された国営テレビのドキュメンタリー特番。その大きな筋書きは、プーチン氏がチェチェン紛争を通じてテロリストからロシアを救い、安定と繁栄をもたらしたというものだった。

 実際、かつて廃虚と化したチェチェン共和国の首都グロズヌイには今、高層ビル群やショッピングセンター、「欧州で最大」とされるモスク(イスラム教礼拝所)が立ち、紛争が過去のものとなったことを印象づける。

 しかし、ロシアの法制や政治制度と相いれないカディロフ氏の言動を振り返れば、きらびやかな外見とはかけ離れたチェチェンの異色さが浮かび上がる。

「見知らぬ者に発砲」

 「モスクワからであれ何であれ、見知らぬ者(治安部隊)が現れたら発砲して撃退せよ。この土地の主であるあなた方が統制せねばならない」。先月、隣接する地方から逃れてきた手配犯が露内務省治安部隊に射殺されたのを受け、カディロフ氏が配下の部隊に述べたものだ。

 「カディロフツィ」と呼ばれる2万人超のチェチェン治安部隊は法制上、ロシア連邦内務省の傘下にあるが、実態はカディロフ氏の私兵だ。外部の部隊が許可なく共和国内で活動することは認めない、と公言したに等しい。

 連邦治安機関とカディロフ一派の対立は2月下旬、モスクワで反政権派指導者のボリス・ネムツォフ氏(55)が射殺された事件でも指摘された。逮捕された容疑者の一人はチェチェン治安部隊の元幹部で、カディロフ氏はこの人物を「真のロシア愛国者だ」などと擁護。別の容疑者がチェチェンに隠匿されている疑いも浮上している。

 カディロフ氏は昨年12月、グロズヌイで起きたテロをめぐり、実行犯の親族を追放し、住居も撤去するなどと発言。その後、親族らの住居が何者かによって焼き打ちにされる一件もあった。カディロフ氏の側近が最近、一夫多妻制を法的に認めるべきだと述べたことも波紋を広げている。

 プーチン氏は首相だった1999年、第2次チェチェン紛争の陣頭指揮で一気に人気を高め、翌年の大統領選で圧勝。大規模戦闘の終結後は、独立派ゲリラを率いて寝返ったカディロフ父子(父は2004年に爆死)に現地の強権統治を委ね、巨額の復興資金を投下した。反カディロフ派が一掃されたために共和国内のテロはめっきり減り、グロズヌイは安定と繁栄の「ショーケース」となった。

忠誠示しつつ実利狙う

 つまるところ、プーチン氏にとってのカディロフ氏は、チェチェン独立を阻止し、連邦崩壊を食い止めた「恩人」にほかならない。カディロフ氏もそのことを理解し、プーチン氏への個人的忠誠は示しつつ「実利」を狙ってきた。チェチェン共和国予算の9割は連邦中央からの補助金とされ、カディロフ氏は豪奢な生活と、カネによる側近掌握術で知られる。

 「チェチェンは事実上の独立を手に入れ、プーチン氏はカディロフ氏の『虜(とりこ)』になった」と反プーチン政権派はしばしば語る。プーチン氏がカディロフ氏を切り捨てれば、チェチェンが再び連邦中央に反旗を翻しかねない。中央ではチェチェン向けの巨額資金やカディロフ一派の専横に対する反発が強まっているが、プーチン氏は身動きを取れずにいる。

 確かなのは、プーチン、カディロフ両氏の「特別の関係」や「金づる」が何らかの事情で損なわれた場合、チェチェンがまたもや火薬庫となる可能性が十分にあるということだ。(えんどう・りょうすけ モスクワ支局)

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