100年以上の歴史を誇る青森、秋田両県にまたがる十和田湖のヒメマスを地域ブランドとして売り出そうという取り組みが進められている。漁業団体や宿泊業界などが行政と連携し、鮮度を保持するための品質管理と安定供給で高付加価値化を図る。関係者は低迷する十和田湖観光活性化の起爆剤として大きな期待を寄せている。 (福田徳行)
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◆年間10トン水揚げ
十和田湖のヒメマスの歴史は明治時代に遡(さかのぼ)る。火山湖のためもともと、魚がすまないとされていたが、小坂鉱山(秋田県小坂町)に勤務していた陸奧国毛馬内村(現・同県鹿角市)出身の和井内貞行(1858~1922年)が明治36(1903)年に稚魚を放流。2年後に成魚となって回帰、養魚事業に成功した。
以来、孵化(ふか)場の完成や養殖技術の確立などによって守り継がれ、近年は資源管理のために毎年、70万尾の稚魚を放流し、年間約10トンが水揚げされている。
こうした中、孵化事業を行っている十和田湖増殖漁協(青森県十和田市)が県内外に十和田湖の名産品をPRするために十和田湖畔の飲食店や宿泊業界などと協議、統一名を「十和田湖ひめます」とし、平成25年8月に特許庁に地域団体商標を申請、今年1月に登録された。地域団体商標は地域ブランドとして他地域の商品と差別化して保護する制度。同漁協の小林義美組合長(71)は「『ヒメマス』や『ひめます』など、まちまちだった表記を統一するまでに2年かかったが、実績を積み重ねて決まった」と話す。
◆解凍し刺し身に
今後、同漁協はさらなる鮮度保持のために、十和田市の支援を受けて約700万円で新たに冷凍設備を更新する。現在の設備はマイナス約20度で冷凍、保管しているが、同40度まで下げられる設備を導入、解凍して刺し身など生食でも提供できるようにする。これにより、禁漁期間でも高品質なヒメマスを供給できるようになり、品質管理の向上と安定供給につなげていきたい考えだ。さらに、発泡スチロールにヒメマスのロゴを入れたり、湖畔の飲食店ののぼり旗を目立つようにしたりして工夫するほか、ホームページも作成して広く十和田湖ひめますをアピールしていく方針。小林組合長は「統一したメニューも考えたい」と話す。
25年の県観光統計によると、十和田湖を含む十和田八幡平国立公園の入り込み客数は、181万9千人と前年に比べ8・7%減少し、十和田湖遊覧船の利用者数も前年比6・2%減の約14万6千人にとどまっている。さらに、湖畔の旅館・ホテルの休廃業も相次いでいる。
小林組合長は「ヒメマスのブランド化を通して十和田湖の観光産業の振興と若者が定住できる産業にし、十和田湖の元気を発信していきたい」と意気込む。
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【用語解説】ヒメマス
サケ科の淡水魚で、日本の原産地は阿寒湖(北海道釧路市)とチミケップ湖(北海道津別町)。脂の乗ったサーモンピンクの身は独特の食感と甘みがあり、定番の塩焼きのほか、天ぷら、フライ、かば焼きなど料理のレパートリーも広い。