浪速風

伝統を体現した京男

杉本秀太郎さんにお目にかかったのは40年近くも前である。「洛中生息」で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞され、インタビューのため京都を代表する町家である杉本家を訪ねた。40代半ばのフランス文学者は端正な着物姿で迎えてくれた。京男とはこういう人かと思った。

▶京町家は「うなぎの寝床」と呼ばれ、間口が狭く奥行きが深い。玄関から奥まで続く「通り庭」は通路であるとともに風の通り道になる。京格子は外から見えにくく、内からは通りの様子がうかがえる。軒の庇(ひさし)は夏の日差しを遮り、冬の低い太陽は招き入れる。伝統の機能と美は、杉本さんの文章、いやご本人そのものだった。

▶「生まれてからずっと祇園祭のまん中に住んでいる。(略)祇園囃子が脳髄の芯に刻みこまれ、体液のうちに混り、ときには心臓の加減をさえ左右するとしても、すこしもふしぎなことはない」(「神遊び-祇園祭について」より)。もうすぐお囃子の練習が始まるのに。