名大生タリウム事件 宮城県警、被害者聴取も「白い粉」情報伝わらず

 名古屋大の女子学生(19)が県内の高校に在学中、同級生ら男女2人に劇物の硫酸タリウムを飲ませたとして殺人未遂容疑で再逮捕された事件で、県警は平成25年2月ごろに行った被害者の男性(19)への事情聴取の際に、女子学生の名前を把握していた。タリウムとのつながりは、女子学生が進学先の名古屋市で無職女性(77)を殺害したとして、殺人容疑で今年1月に逮捕された後に浮上したとみられていたが、県警は事前に情報を得ていたことになる。周囲はなぜ、女子学生の特異な行動と事件を結びつけることができなかったのか。(上田直輝)

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 「女子学生が白い粉を同級生になめさせているのを見た」

 県警は26日夜、男性の被害届を受理する直前の事情聴取で、こう聞いていたことを明らかにした。男性はタリウムの摂取に心当たりはないと説明したが、捜査員が「変わった子はいないか」と尋ねたところ、高校の同じクラスに変わった行動をする人物がいるとして、女子学生の名前を挙げたという。

 捜査員は聴取記録に残さなかったが、「白い粉」の情報を省き、上司には女子学生の名前を報告していた。県警は、高校や県内の薬局などへの聞き取りなどの中で、女子学生の名前が挙がらなかったため、捜査に生かせなかったとしている。県警は当初、女子学生の名前は捜査過程で浮上しなかったと説明していた。

 ◆父親の相談生かせず

 愛知、宮城両県警の合同捜査本部によると、女子学生は高校2年生だった24年5月27日、仙台市内のカラオケ店で中学の同級生だった女性(19)の飲み物に、同28日から6月上旬ごろには高校の教室で男性のペットボトルに、タリウムを混ぜたとされる。

 捜査本部によると、事件直前の24年5月、女子学生の父親が実家近くの警察署に「娘が危険な薬品を所持している」と相談に訪れた。薬品は硫酸銅、水酸化ナトリウム、亜硫酸ナトリウムの3種類で、女子学生は「理科の実験をするために買った」と説明。県警は成分を調べたが、高校の実験でも使う薬品だったため口頭の注意に留めていた。

 一方、男性は6月ごろから、視力が著しく低下。タリウム中毒と診断され、12月に別の警察署に相談した。同署は25年2月に被害届を受理したが、県警内で女子学生の薬品所持の情報は共有されなかった。女子学生はタリウムを山形県天童市の薬局で購入していたが、県警は宮城県内しか調べていなかった。

 県警の横内泉本部長は20日の定例記者懇話会で、「捜査に抜けはなかった」としていた。しかし、26日に県警が、「白い粉」の報告漏れを認めたことで、当初の説明と整合性がとれなくなった。

 この点について、県警は27日、田原一成刑事部長が報道陣の取材に応じ、「白い粉という言葉が報告されていれば、捜査は違う方向に進んでいただろうし、本部長の言葉も違っていただろう」と説明。名古屋の殺人が防げたのではという問いかけには、「コメントできない」とした。今後、当時の捜査員を中心に捜査状況を確認するという。

 ◆「手掛かりなく」

 一方、高校側は、女子学生の再逮捕から3日後の今月18日に開いた会見で、男性のタリウム中毒を認識したのは24年12月と説明。翌年に県警の捜査が始まった後も、在校生への聞き取りや情報提供の呼びかけは行わなかったという。

 当時を知る捜査関係者は「高校からの手掛かりはなく、(犯行現場が)校内とみて捜査するのは難しかった。被害男性の家族からもタリウムが検出され、家族で出かけた先で摂取した可能性も捨てきれなかった」と明かす。「捜査にミスが多かったといわれても仕方がない」と話した。

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