相談
離れて暮らす60代の母のことでご相談します。母は約10年前に病院通いを始めました。最初は「脇の辺りが痛いからレントゲンを撮ってもらう」と言って受診。特に異常はみつからず、しばらく痛みが続いたものの治りました。
次は頭痛で検査を受けましたが、そこでも異常は見つかりません。その後は背中や太ももなど痛む箇所が変わり、その度に大きな病院で診てもらっています。
ドラマを見れば「主人公と同じ病気かもしれない」と心配し、著名人が膵臓(すいぞう)がんで亡くなったと新聞で知れば、膵臓が痛いと言い出すといった具合です。
母も何かおかしいと感じたらしく、どうやら「自分は病気だ」と思い込む心気症という精神的な病らしいというところに落ち着きました。母からは「誰も私の話を真剣に聞いてくれない」と言われます。この病気は治るのでしょうか。(兵庫県 30代女性)
回答
まずは「心気症」について、簡単に説明しましょう。心気症は、ささいな身体変調の自覚をきっかけとして、「自分はがんなのでは」「エイズに違いない」といった思い込みに陥り、そこから抜け出せなくなるという神経症の一種です。
綿密な医学的検査を施しても、原因は究明されませんが、本人はそこで満足せず、「この医者がヤブだから、誤診しているのではないか」「がんは胃になくても、他の臓器に転移してしまっているに違いない」などと、取り付く島がない。
お母さんは確かに心気症でしょう。この疾患の背景には漠然とした、でも強固な、死に対する恐怖が存在します。そしてこうなる人は大抵、神経質で、寂しがりや。死とは、いわば究極の孤独ですから、それは寂しくて耐えられない。医師や家族にしがみつくのは、そこからくる甘えの表現です。「この病気は治るのか」というあなたのご質問ですが、これは生への執着が固着化した形なので、生涯にわたりなかなか変化することはありません。
では、どう対応すべきか。家族も最初は真剣に向き合っていますが、あれこれ体の不調を表明されるにつれ、うんざりしてくるのが常です。ただ、これほど生に対し執着し、家族へ甘えかかるというのは、これまでの人生を共に過ごした家族がまんざらでもなかった証拠です。つまりもう、あなたは子としての役割は果たせている。それゆえ、無理のない範囲でお付き合いをされ、うんざりするなら少し離れてみても良いでしょう。また見方を変えるなら、このことが「これから先、彼女が、そしてあなたが納得のいく生を終えるため、どうしていくべきか」を考えるための格好の機会になる。決して面倒ばかりではないのです。
回答者
熊木徹夫 精神科医。46歳。「あいち熊木クリニック」院長。著書に『精神科医になる』『君も精神科医にならないか』『もう悩まなくていい~公開悩み相談』など。
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