『細雪』や『痴人の愛』で知られ、今年没後50年を迎える文豪・谷崎潤一郎(1886~1965年)は7月生まれだし、日本人で初めてノーベル文学賞を受けた川端康成(1899~1972年)も6月生まれだ。また冒頭の「文学界」コラムによると、芥川賞選考委員にしても20年前となると早生まれは9人中2人にとどまるという。現役作家にも、そうした例外は多い。米文学賞を受けるなど躍進を続ける中村文則さんは9月生まれ。『鹿の王』で4月に今年の本屋大賞に選ばれた上橋菜穂子さんは7月生まれだ。
「作家になるより作家であり続ける方が難しい」とはよく言われる話。島田さんはこうも言っていた。
「加齢とともにどうしても創作意欲は落ちる。そうしたとき、どれだけ世界に対して好奇心を持ち続けられるかが作家として重要になる。自分の作品に決して満足せずに、技術的な向上を目指す、という謙虚さも必要です。これは誕生日を選ばない要素でしょう」
幼少時の経験が、作家を目指すきっかけにはなるかもしれない。でも、それが作家にとっての必要十分条件にはなり得ない、というわけだ。
説を肯定する理由にもそこそこ説得力はあるけれど「例外」もかなり多い。議論百出だけれど、結論は玉虫色に…。ただ、さまざまな想像を誘発するような愉快な伝説であることは間違いなさそうだ。