話題の肝

「早生まれは作家になりやすい」-? 芥川賞選考委員の9割も…「なぜ」を調べてみた

 「同級生と比べるとやはり幼くて、小学校低学年のときの成績はもう悲惨でしたね。クラスで中心になれないから、幼心に『もう道化になるかしかないな』と思ってました(笑)。そうした幼時のトラウマが書く動機にはなり得ます。つまり物書きになって現実を変えてしまおう、と。一つの復讐(ふくしゅう)ですね。あくまで無意識のレベルですが」。さらに「口げんかでも同級生に負けてしまうことがよくあって、後々になって『あのときこう言い返せばよかった』と悔しく思うこともありましたね。そういう経験が積み重なってくると、ひょっとして…」とも。

 執筆作業は見えない他者とのコミュニケーションともいえる。言葉で伝えることの難しさを早くから意識することは、作家にとって欠かせない原体験なのかもしれない。

「例外」もたくさん

 とはいえ、この説を検証するためにはもう少し母数の大きいデータがほしい。そこで『文藝年鑑 2014』(日本文藝家協会編、新潮社)の文化各界人名簿で、生年月日を公表している早生まれ作家の数を実際に数えてみた。生年月日を公表していない作家もいるが、一つの指針にはなると思うからだ。

 結果、肩書に「作家」もしくは「小説家」との記述が含まれる生年月日公表者は1148人で、そのうち早生まれは368人に上った。率にして約32パーセント。1年を単純に4等分した25パーセントよりは確かに多い。でも、胸をはって「やっぱり作家は早生まれが多い」とも言えない。微妙な数字だ。

 冷静に考えてみれば、この説から外れた大作家は枚挙にいとまがない。

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