本書は大著であるにもかかわらず、文章によどみがなく理解も容易である。また史料の少ない分野へ切り込む著者の意気込みも並々ならぬものを感じる。しかもその試みは決して無謀ではなく、多様な史料によって多角的に考察し、従来の膨大な研究をも丁寧かつ批判的に検討していく姿勢は一つの手本となる。たしかに本書は二つの意味で教科書なのである。一つには史料をどのように批判検討すべきなのかという「史学概論」の教科書として、いま一つにはどのようなテーマがロシアの古い時代を考えるうえで問題となり、それをどう扱うべきなのかという意味でのそれである。今後は本書が古代・中世ロシア史を勉強しようとする者にとって間違いなく最初に読まなければならない本となるであろう。(成文社・1万6千円+税)
評・