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東京・品川で教員と巡査を殺害し、大阪に逃げた短銃強盗は、茨木で3人目の犠牲者を出した。品川の事件から4日後の大正14年11月13日のことだ。
共犯者を身代わりに
殺されたのは、飲食店「喜楽亭」こと、増井豊吉方の女中、田井あい。この事件で逮捕された共犯の姫野薫によると、逃走中のもう一人の男は自称、奈良県生まれの本田俊一(29)。大阪・中之島公園のベンチで知り合った姫野薫を唆し、同人と着物を取り換えて、茨木の飲食店に侵入して女中を射殺。再び着替え、姫野を身代わりにして逃げるという狡猾な犯行だったという。
取り調べた神奈川県警の香取警部は、本田の人相、格好、髪の毛の薄いところや言葉遣いなどから逃走犯は東京の犯人と同一のようだと記者らに漏らす。しかし、すでに警視庁は指紋を入手。姫野が供述した人相やその他の情報と合わせ、18日には、連続短銃強盗が東京・品川の事件にも関わる、本籍・神戸市布引通で、守神(もりかみ)健次や本田俊一など数々の偽名を使い分けた本名・大西性次郎(39)と判明した。ピストルと健次から、「ピス健」と呼ばれる。大阪・茨木の女中殺人で共犯の姫野薫も、自分を悪道に誘った男が大西性次郎とは知らなかった。
ただちに報道規制が敷かれる一方、写真と人相書きが全国津々浦々の警察に配布されて、足取り捜査が展開された。
警察への挑発?攪乱策?
性次郎は大胆にも、警視総監や高輪署長、大阪府警察部長宛に、11月19日付で手紙を出している。
内容は「近々上京してお目にかかる。凶名を後世に伝うべく大望を抱え、逮捕するなら死を決して来い。さもなくば犯人を殺す覚悟で向かえ」と挑発の文句で埋まっていた。