東日本歴史事件簿

短銃強盗「ピス健」(上)複数偽名、サーカス仕込みの身のこなし…教員と巡査を射殺し、大包囲網すり抜け高飛び逃走

当然ながら警視庁はこの情報に、捜査課長、警部を急行させ、現場臨検で手口などから品川の事件と同一犯かどうかを検証。また神奈川県警保土ケ谷分署は、戸塚の犯人が午前6時ごろ保土ケ谷の元町で着ていた印半纏と自転車を捨てて山中に逃げ込んだことを確認し、青年団や消防隊約300人で午前10時40分から山狩りを行った。

その後、11日夜に横浜・三ツ沢の豆腐屋の戸を叩き、岡野公園に行く道を尋ねた者がいることが判明。豆腐屋では怪しんで返事をしなかったが、数町を隔てた理髪店でも同じように尋ねたものがあり、県警は犯人との見方を強める。

まるで巡査のような話しぶり

実際、男の行動は大胆不敵なものだった。宝蔵院に押し入る前日10日は戸塚町の家に押し入ったが、留守番の老女が出ると、「泥棒が来たらああしてこうして」と巡査のような話しぶりで対応。また11日の山狩りの最中にも、巡査に道を尋ねたり、「まだ泥棒は捕まらないのですか」とおちゃらけた態度で会話していた。

横浜市内に逃げ込んだ可能性があるとのことで、県警は捜査本部を戸部署に移し、密航者などをたびたび捕らえて取り調べるも、該当者らしきものは見つからない。ただ、14日午後になって宝蔵院などに残された指紋と、品川の事件の前の10月28日に横浜市久保町で発生した短銃強盗事件の遺留指紋とが合致。ようやく犯人特定の糸口が見つかり始めた。

足跡が途絶え横浜からは逃走したのではないかと警察も見切り始めた矢先、大阪に現れたピストル強盗の手口が品川の事件と似ていることが判明。警視庁や神奈川県警は捜査員を大阪に急行させ、舞台は大阪へと移る。

警察をけむに巻けるのも、幼少期、サーカス団にいたころに培った俊敏さや演技力のたまもの。その生い立ちには、後半で迫る。

=敬称略

(原田成樹)

(下)大阪で3人目の犠牲、警察を挑発して高飛び…最後は「女装姿」で御用

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