東日本歴史事件簿

短銃強盗「ピス健」(上)複数偽名、サーカス仕込みの身のこなし…教員と巡査を射殺し、大包囲網すり抜け高飛び逃走

日頃から心得のある柔術で一度は投げつけたものの、強盗が放った2発目が腹部に当たり転倒。それを見て、強盗は狙いも定めずに3発目を発射して逃走した。

未明の品川駅

まだ暗がりの午前4時45分ごろ、品川駅構内八ツ山下転轍所(ポイント切り替え所)のすぐ前を怪しい男が歩いているのを同所に詰めていた高橋秀作(26)が発見。誰だと近寄ろうとすると、突然短銃を発射してきた。中からもう一人の沢野亀五郎も驚いて飛び出したがそこでも再び発射。2人はすぐに駅構内にある警察官詰め所に電話で通報した。

詰め所では、高輪署所属の巡査、久保田彦七と飯束喜代政(39)のうち、飯束巡査が勤務中で、寝ていた久保田巡査に事件だからちょっと行ってくると出て行った。しかし10分後、八ツ山下転轍所の逆側にある第6転轍所に勤務していた小川助作(33)から詰め所に「誰か線路内でうなって倒れているからきてくれ」と電話で連絡。久保田巡査がかけつけると第6転轍所のそばで倒れ死亡していた。右胸上部を長さも幅も2センチにわたって短刀のようなもので斜めに一刺しされていた。巡査の帯剣は現場から100間(約180メートル)離れた海岸に捨ててあり、強盗が飯束巡査の短剣を奪って刺したとみられるが、指紋はなかった。

飯束巡査は剣道で助手を務めるほどの腕前で、帽子を被ったまま、服装も上着の3つボタンが外れている程度のため、おそらくは海岸付近で捕まえて連行する際に、突然刺されたのではないかと推測された。

小男、労働者風

八ツ山下転轍所の高橋秀作によると、犯人は小男で、一見労働者風。しかし、指紋、足跡の遺留品もなく、人相も明確でないため犯人の特定は難しい状況だ。

会員限定記事会員サービス詳細