精神科は患者さんの主観的な訴えを根拠にして診断する比重が他科と比べて高いという特殊性につけ込んでいるのではないかと疑心暗鬼になるのは、生活保護受給者に対しても同様だ。
以前外来を担当していた診療所で、生活保護を受給している女性の患者さんが「ここに通うようになってから、ケースワーカーに『働け』と言われなくなったので、ほっとしている」と話したときは、あぜんとした。精神科を受診して「鬱病」という診断名を与えられ、「就労不能」と書いてもらえば、ケースワーカーからあまりうるさく言われなくてすむというわけで、思わず本音が出たのだろう。
この患者さん以外にも、「就労不能」のお墨付きをもらおうとしているのではないかと疑わざるを得ないような事例は多々ある。なので、かわいそうだからと患者さんの訴えをうのみにすると、プロとして失格かなと思うのである。
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新刊『他人の意見を聞かない人』(角川新書)が発売されたばかりの精神科医、片田珠美さん。25万部を突破した『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)や『プライドが高くて迷惑な人』(同)などでもみせた鋭い人間観察眼で、世間を騒がせたニュースや日常のふとした出来事にも表れる人の心の動きを分析します。
片田さんは昭和36(1961)年、広島県生まれ。大阪大医学部卒、京都大大学院人間・環境学研究科博士課程修了。他の著書に『無差別殺人の精神分析』(新潮選書)、『一億総うつ社会』(ちくま新書)、『なぜ、「怒る」のをやめられないのか』(光文社新書)、『正義という名の凶器』(ベスト新書)など。