歴史戦 第10部・終わらぬプロパガンダ(6)

「南京事件」広めた本 著者の豪人記者は中国からカネ貰って執筆した…そんな本が「百人斬り」脚色、裁判をも影響

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 台北にある国民党の党史館が所蔵する「極機密」の印が押された史料「中央宣伝部国際宣伝処工作概要」には、「本処(国際宣伝処)が編集印刷した対敵宣伝書籍」として、オーストラリア人記者、ハロルド・ティンパリー著の『戦争とは何か(WHAT WAR MEANS)』(1938年出版)の中国語版名が記載されている。

 中国語版の序文を書いた文化人の郭沫若は、日中戦争勃発にあわせ、中国共産党や国際共産主義運動組織コミンテルンの支援で亡命先の日本から極秘帰国し宣伝を行っている。

 国際宣伝処は同書を反日世論工作のための「宣伝本」として位置づけ、中国語版『外人目睹中之日軍暴行』を出した。他にもニューヨーク、日本、コペンハーゲン、パリでもそれぞれの言語で出版された。英米版は12万冊出版されたという。

 同書は「南京大虐殺をいち早く世界に広めた本」(南京大虐殺記念館長の朱成山)だといわれ、連合国による戦犯裁判にも影響を与えたと指摘されている。

伝聞も含まれ

 国民政府が開いた南京軍事法廷の複数の判決書には『戦争とは何か』が登場する。

 特に「百人斬り」を実行したとして訴追された向井敏明、野田毅の両少尉に対する裁判では、ティンパリーによる脚色や中国語訳版における事実の書き換えが影響し、死刑判決が下ったことが立命館大特任教授、北村稔の研究で明らかになっている。