歴史戦 第10部・終わらぬプロパガンダ

(5)中国でも話題になっていなかった「南京」 権力闘争の具に利用され

1937年にあったとされる「南京事件」の発生から77年目にあたった2014年。節目の年でもなければ、日本政府要人が「南京事件」を否定するような発言をしたわけでもない。にもかかわらず中国当局は突然、「南京事件」をアピールし始めた。

この年の3月、国家主席、習近平が訪問先のドイツで「南京大虐殺の死者は30万人」と発言した。6月には中国政府が南京事件に関する資料を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の記憶遺産に登録申請した。そして12月、国を挙げての国家追悼式典が行われた。

党内勢力変化 揺れ動く対日政策

「これまで一度もやらなかったことをなぜいまやるのか」

追悼式典を疑問視する中国人も少なくなかった。

独立系シンクタンクに所属する日本問題の研究者は次のように説明する。

「中国当局が歴史問題をアピールし、日本批判を強めるときは、ほとんど国内の政治状況が不安定なときだ。日本に対する態度は共産党内の『保守派』と『改革派』を見分ける重要な指針だ。日本批判は両派の主導権争いに使われることが多い」

1972年の日中国交正常化以降、中国当局の対日政策は共産党内の勢力変化に伴って「友好」と「批判」で揺れ動くとされる。それに合わせて、南京問題を研究する学者らも「メディアに引っ張りだこ」になったり、冷や飯を食わされたりしている。

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