鑑賞眼

平成中村座・陽春大歌舞伎 所縁の俳優陣、随所に楽しさ

 平成中村座の生みの親、十八代目中村勘三郎が逝って3年。息子の勘九郎、七之助兄弟を中心に、所縁の俳優たちが旗揚げの地で十八代目をしのぶ。平成中村座の新たなスタートである。

 衣鉢を継いだ兄弟が、父の得意とした演目にみずみずしい意欲で挑戦、硬軟自在に役を生きた。昼の「魚屋宗五郎」。勘九郎の宗五郎に女房、おはまの七之助。酒断ちした宗五郎が酒乱の本性を露(あら)わに磯部家へ暴れ込む変身過程が、声は父、様相は父に遠い潔癖な怒りようで、勘九郎の特質がそこにある。七之助は世話女房を絵に描いたように好演。磯部主計之助(かずえのすけ)で中村獅童(しどう)。

 夜。「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)・三笠山御殿」の七之助のお三輪が魅力一番。求女(もとめ)実は藤原淡海(中村橋之助)に恋狂いして御殿に入り込む。花道の出の過敏な美しさに既に悲惨へ通じる蛇のような嫉妬(しっと)心が張り付く。「お顔がみたい」の末期の哀れも十分だ。獅童の鱶七(ふかしち)実は金輪五郎は晴れがましい風格、妖(あや)しさが欲しい。勘九郎は「高坏(たかつき)」で下駄(げた)タップを披露。父の軽やかさと違う一本気な楽しさがある。

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