きょうの人

電王戦で勝ち越しを決めた棋士、阿久津主税さん(32) 「勝利活力に公式戦で巻き返したい」

 「ここまで2勝2敗できて、結果を求められていた。ソフトを事前に調べて、一番勝つ確率の高い作戦を選んだ。無事に終わって今はほっとしている」

 過去2年連続で負け越しているプロ棋士にとって敗北は許されない。大きなプレッシャーの中、見事な作戦でソフトを下し、棋士のプライドを守った。大役を果たし、対局後の記者会見では表情を緩めた。

 兵庫県出身。羽生善治棋聖(44)=4冠=らが通ったことで知られる東京の名門「八王子将棋クラブ」で腕を磨き、小学6年生でプロ棋士養成機関である奨励会に入会。同期には渡辺明棋王(30)や橋本崇載(たかのり)八段(32)ら実力者が顔をそろえる。平成11年に17歳でプロデビュー。当時から「素質は渡辺より上」といわれ、将来を嘱望された。だがその後の成績はふるわず、昨年、トップクラスのA級順位戦に昇級するまでデビューから15年を数えた。

 今回の電王戦に「大将格」での出場が決まったのは昨秋。トップ棋士10人で争うA級で勝ち星に恵まれず全戦全敗が続くなか、日本将棋連盟から白羽の矢が立ったのだ。

 「ごちゃごちゃしたねじりあいは疲れる。速い勝負で自分の持ち味が出る将棋を目指す」。昨年10月の会見で語った通り、対局開始からわずか49分で強豪ソフトをねじ伏せた。

 端正なルックスから「東の王子」と称され、ファンからは親しみをこめて「アッくん」と呼ばれる人気棋士。競馬が趣味という根っからの勝負師だ。順位戦は結局1勝もできず降級が決まったが、「今日の勝利を活力にこれから公式戦で巻き返したい」と飛躍を誓った。(藤田昌俊)

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