変わりやすい春の天気を予報するのは難しい。気象庁の前身の中央気象台に勤務した新田次郎さんに「赤毛の司天台」という小編がある。江戸の牛込に天気予報が当たると評判の浪人がいた。身なりをかまわぬ着たきりすずめで、褌(ふんどし)の湿り具合によって予報していた。それが結婚して身ぎれいになると。
▶洗濯するから当たらなくなってしまった。江戸城大奥で花見を催すから晴天の日を選べと依頼される。それでも浪人の予報は当たり、1日違いの司天台(当時の天文台)を信じた花見は風雨で散々。縮れた赤毛の妻が「天気が変わるかしら、髪が櫛(くし)にひっかかるわ」と言ったのをヒントに予報の方法を変えたのだ。
▶毛髪が湿度計の役目をはたすのは古くから知られており、「櫛が通りにくい時は雨」。天気のことわざは昔の人の知恵である。満開の桜が雨にたたられ、季節はずれの寒波で雪が降ったところもあったが、「3月の風と4月の雨が美しい5月をつくる」という。