その他の写真を見る (1/3枚)
アフリカ・ギニア東部の熱帯雨林。石器でヤシの種を割っていたチンパンジーに、別のチンパンジーが近づき、毛づくろいを求めるしぐさをする。相手がその要求に応えるように毛づくろいをしようと石器から手を離した瞬間、そのチンパンジーはサッと石器をかすめ取った。
野生のチンパンジーを観察している京都大霊長類研究所が撮影した動画には、石器を手に入れたチンパンジーがニヤッと笑ったように見える表情がはっきりと写っていた。
「この時、チンパンジーは明確に嘘をついた。毛づくろいを求めると装って相手の石器をだまし取ったのです」。同研究所教授でチンパンジーを通じて人間の心の進化を研究する松沢哲郎(64)=比較認知科学=はそう説明する。
「かつて、真の意味で嘘をつくのは人間だけと考えられていた。他者の心を理解する能力が必要だからです」。しかし、松沢らの研究によると、チンパンジーにもある程度、他者の心を読む能力があるという。「だから、彼らも少しだけ嘘をつくことができる」
ちなみに、ニホンザルなどは仲間同士で相手の心を理解する能力をほとんど持っておらず、嘘をつくこともないとされる。
嘘の個人差と脳との関係は…
では、人間の嘘にはどのようなメカニズムがあるのか。脳科学の観点から、そうした課題に迫る研究がある。京都大准教授の阿部修士(34)=認知神経科学=らは昨年8月、脳の特定領域の働きが活発な人ほど嘘をつく傾向が大きいとの研究成果を発表した。