話の肖像画

演出家・蜷川幸雄(79)(2)商業演劇に進出して

「真情あふるる軽薄さ」は行列の芝居ですから、番号を打った人形50個ぐらいと階段のセットなど、自分で装置を作って、どういうふうにやったら立体的に見えるかやってみた。でも仕事がなかったから、埼玉県川口市の2Kの公団アパートに、40歳ぐらいまで住んでいました。

〈49年には、商業演劇の演出も手がける。市川染五郎さん(現・松本幸四郎)と中野良子さんが主演した日生劇場の「ロミオとジュリエット」。当時38歳で、商業演劇を演出したために桜社(現代人劇場の後身)は解散した〉

僕は経験を積んで劇団へ戻るつもりだったけれど、みんなが自分たちを捨てた演出家は嫌だと。今は小劇場の演出家も商業演劇を手がけますが、それができない時代だった。だから居直って、意地になって商業演劇で生きようと思った。でも演出の仕事で食べていけるようになったのは45歳を過ぎてからです。それまではヒモ。子供ができたときは、主夫になりました。

〈過去の新聞記事には、「灰皿が飛ぶ」「稽古場のオニ」などと書かれている〉

最初に灰皿を投げたのは「ロミオとジュリエット」の稽古場です。その他大勢の役がサングラスをしている。スリッパはいて、剣の代わりにほうきを持ってくる。それで、幕開きの乱闘シーンで、チャーンチャーンチャン(と立ち回り)。それじゃあ誰だって灰皿投げるよ。声がかれるからと、舞台稽古でも本気の声を出さないんだから。でも今は何も投げません(笑)。(聞き手 飯塚友子)

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