■隊員の疲労回復に威力
最大100人の緊急消防援助隊員が被災地で長期間活動できる装備を満載した特殊車両が2月25日、東北で初めて岩手県久慈市の久慈広域連合消防本部に配備された。東日本大震災で全国各地から派遣された緊急消防援助隊員が、十分な後方支援を受けられずに疲弊した苦い教訓を生かした特殊車両。配備式で披露された真新しい各種装備に、消防関係者は目を見張った(石田征広)
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特殊車両の正式名称は、緊急消防援助隊「拠点機能形成車両」。最大の特徴は、四輪駆動の大型貨物トラックの荷台が、スライドして広さ40平方メートルの指揮本部と休憩所に早変わりするところ。総務省消防庁が南海トラフ地震や首都直下地震に備え、装備を含め1億2千万円の車両を無償貸与する形で平成25年度から配備を進めている。久慈市が全国で7台目となる。
目標は食料や宿舎が全て自前で活動できる自衛隊。装備は被災地に派遣された緊急消防応援隊員の意見を取り入れ、隊員のストレスを少しでも軽減する工夫が凝らされている。
久慈広域連合消防本部の室内駐車場で披露された車両本体と各種装備で、震災被災地に派遣された消防隊員が最初に注目したのが、冷暖房完備で収容できる34人分の簡易ベッドが並ぶエアーテントだった。
「テントは二重になっているから結露にならない。簡易ベッドも広く頑丈になって寝やすくなっている。何より、ベッドについている隣を見えなくする遮蔽幕がありがたい」
東日本大震災が起きた3月11日は小雪の舞う冬の寒さだった。当時のテントは生地が一枚で、一晩たってたたむときに霜が降ってきた。簡易ベッドも大柄な隊員には手狭で強度不足だった。被災地に派遣された消防隊員の睡眠時間は、1日多くて3、4時間。ほとんど仮眠しかできなかった。この苦い教訓を車両を無償貸与している総務庁消防庁広域応援室が生かした。
「生地が二重ならテントの結露を防げる。震災当時の簡易ベッドは幅約50センチで耐荷重100キロでした。しかし、強度不足でへこみ、寝づらいということで、幅70センチで耐荷重200キロのものに変更しました」
簡易ベッドの遮蔽幕についても、「テント内では雑魚寝のようになります。作業も衆人環視のもと。まったくプライバシーがありません。あの幕で視界を遮断するだけでも気が休まるということで採用することにしました」と説明する。
新装備で画期的と評されたのが浄水機だ。震災当時は水をペットボトルや20リットルのポリタンクで運ぶしかなく、量も限られた。岩手県宮古市の被災地に5~7日間単位で隊員を派遣した秋田市消防本部によると、一度に現場に運べる量は20リットルのポリタンクで25個(500リットル)だったという。
浄水機の導入で川の水や海水が飲料水になる。2500リットルの貯水槽と浄水機の前に消防関係者の人だかりができた。隣にシャワーユニット(装備は2台)も展示された。震災当時、隊員はウエットティッシュで体をふくしかなかった。浄水機の装備でシャワーも使えるようになった。
しかも、「シャワーで少しでもストレスを解消できるよう、座って体も洗えるよう広くした」という設計だ。このほか、2台で一度に100食分のご飯とおかずができる調理器▽バルーン型投光器3台▽発電機3台▽FF式暖房機とスポットクーラー各6台▽簡易トイレ10セット▽呼吸器用コンプレッサー1台▽衛星携帯2台-などを装備する。
緊急消防援助隊「拠点機能形成車両」は26年度までに全国に9台配備される。万が一の災害時には威力を発揮しそうだ。