彩人国記

前田紗希さん ローザンヌからボートレーサーに

 エンジン音とオイルの匂いが満ちるボートレース場。「レースの魅力は、自分を磨き上げるほど強くなれるところかな」。そう語る笑顔は、水上でボートを操るときの鋭さとは、打って変わって柔らかい。

 さいたま市出身。16歳のとき、世界的なバレエの登竜門、ローザンヌ国際バレエコンクールでセミファイナリストという驚きの前歴を持つ。しかし、1年半の米国留学で「世界の壁の厚さを知った」という。母親と将来をめぐり口論となり、「もうバレエをやめる」「じゃあ次は何をやりたいの」。とっさに口をついて出たのは、父親の光昭さん(46)と同じ「ボートレーサー」だった。

 「父が仕事の愚痴を言わず、楽しそうに働く姿を見ていたからかもしれません」

 毎日8時間の勉強を続け、6回目の試験でボートレーサーを養成する「やまと学校」(福岡県)への入学試験に合格。「全寮制で自分の時間がなかったが、気持ちをコントロールできるようになった」と振り返る。

 卒業試験を無事通過し、昨年11月、レースに初出場した。「ものすごく緊張したけれど、ボートに乗ったら、もう何も考えなかった」。バレエの舞台でもボートの上でも、集中力の高さは変わらない。最下位の6着が当たり前とされる初戦で、4着を勝ち取った。

 攻める気持ちがはやって転覆、落水が多いのが課題だ。気持ちに負けないぐらいの技術を身につけるべく練習を重ねる。

 「今の目標は1着を勝ち取ること」。ピットを勢いよく飛び出し、夢に向かって疾走する。(菅野真沙美)

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