鑑賞眼

劇団民芸「ヒトジチ」 若手が演じ切る「出口なき閉塞感」

荒れ果てた宿で、アイルランド人のパワーが歌になり、踊りにもなって炸裂する (劇団民芸提供)
荒れ果てた宿で、アイルランド人のパワーが歌になり、踊りにもなって炸裂する (劇団民芸提供)

IRA(アイルランド共和軍)の活動家出身で、長く獄中生活を送ったアイルランドの劇作家、ブレンダン・ベーハン(1923~64年)の代表作。苦難の自国の歴史を描くには、歌と踊りと笑いで戯画化するしかなかったというべきか。ばかばかしさが悲しい。丹野郁弓(いくみ)訳・演出。

物語の舞台は1960年。ダブリンのいかがわしい安宿に、売春婦や外国人水夫、ゲイのカップルなど雑多な人々が出入りしている。家主(稲垣隆史)は、大昔に終結した反英独立戦争が「継続中」と信じ、宿の日常には独立戦争という物語が共存している。そこへ、IRAに「人質」にされた英国人兵士(細山誉也)が連れ込まれ、物語と現実とが融解していく。

日本では民芸が昭和39年に初演し、51年ぶりの再演。社会の吹きだまりのような宿に集うアイルランド人の鬱屈したエネルギーがこの舞台の全てで、悲劇の終結に向かい、やり場のない思いが酒とアイリッシュダンス、歌となって噴出する(音楽・ピアノ演奏は武田弘一郎)。

出演者全員がいわば色物の役で、新劇の老舗劇団には冒険の要素が大きい作品だ。だが、若手を抜擢(ばってき)する思い切った配役が奏功。圧力釜のような世界で、弾けて生きるしかない人々の閉塞(へいそく)感が浮き彫りになった。

約60年前の海外戯曲とは思えぬ過激さと、今の日本で同時代性を感じさせるほど出口なき世界。観客側も物語と現実を往来する3幕となった。17日まで、東京・新宿の紀伊国屋サザンシアター。(飯塚友子)

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