新人記者奮闘す

湯川さんの父親は堰を切ったように泣いた…テロリズムへの憤りに震えた2週間 

 それだけでも異様な様子だったが、何より恐怖心をかき立てたのは、2人の間に立つ黒い覆面の男だった。男は手に持ったナイフをちらつかせながら、日本政府に対し「72時間以内に2億ドル(約230億)の身代金を支払わなければ2人を殺害する」と脅迫してきた。覆面からわずかにのぞく瞳にぞっとした。

〈1月21~23日〉

 事件はすぐに全国で報道され、さまざまな憶測が飛び交い始めた。映像の不自然さから「合成なのではないか」とする有識者の分析から、「果たして支払期限はいつなのか」と支払金を巡る論争まで多くの情報が流される中、日本政府は21日の記者会見で期限について「政府が映像を確認してから72時間後の、日本時間23日午後2時50分ごろ」との認識を示した。

 私たちも総局をあげて取材に取り組んだ。同僚の記者は、湯川さんの子供時代を知るという近隣住民に話を聞きに走り、県警キャップは20日に千葉県警本部に70人態勢で設置された対策室への取材を進めた。情報を追い求め、この3日間は走り回った以外の記憶がほとんどない。

 そして、期限と見立てられた23日の午後が過ぎたがイスラム国の動きはなく、不気味な静寂が訪れた。

〈1月24日〉

 想定された「期限」から丸1日以上が過ぎた午後11時過ぎ。警戒を続け、いつでも取材に行けるように車内で待機をしているときだった。県警キャップが慌てた様子で車に戻ってきて、「新しい画像が公開されたらしい」と告げた。その画像は、湯川さんとみられる遺体の写真を後藤さんらしき男性が持たされているものだった。目を背けたくなるような残虐な現実を突きつけられた。

 湯川さんの実家の前には、深夜にもかかわらず報道陣が集まった。画像が公開された直後、室内に静かにともっていた明かりが消えたのが目に入った。

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