25年9月の相模原通り魔殺人未遂 小太りの男、厚木方面に逃走か

 相模原市南区当麻の路上で平成25年9月、近くに住む飲食店従業員の女性(68)が見知らぬ男に突然刃物で刺され、重傷を負う通り魔事件が発生した。女性は一命を取り留めたが傷は深く、県警は殺人未遂容疑で捜査。男は隣接する厚木市方面に逃げた可能性があり、捜査員の一人は「被害者は苦しんでいる。必ず捕まえて罪を償わせる」と、犯人検挙への誓いを新たにしている。(小野晋史)

 ◆無言の犯行

 事件が起きたのは9月11日午前9時40分ごろ。当時は小雨がぱらついて蒸し暑く、傘を差しながら勤務先の飲食店へ歩いていた女性は、いつも通り神社の前にさしかかったところで、向かいから1人の男が歩いてくるのに気が付いた。

 「あら、何だろう。気持ち悪いな…」

 この場所で他人と会うことはめったにない。女性が鳥居前の急な階段を下りようとすると、男も後からついてくるそぶりを見せた。不審に感じた女性は「お先にどうぞ」と道を譲ったが、無言で首を横に振る男。仕方なく女性が階段を下り始めると、男はすぐ後ろからついてきた。

 「押されたら落ちるな」

 2人の間隔は数十センチ。背後に不穏な気配を感じながら、薄暗い森の中の階段を慎重に下りる女性。階段が途切れて急坂になったところで強い衝撃を受け、前方に押し出された。勢いで坂を駆け下りながら傘を放り投げ、うつぶせとなって路上に倒れ込んだ。一瞬何が起きたか分からなかったが、目の前には自分の血が付いた果物ナイフが落ちており、襲われたことを知った。

 終始無言のままで、走って階段を戻る男。そのまま立ち去るかと思いきや、途中まで上ったところで再び振り返り、女性の元へ引き返す動きを見せた。

 「これはまずい」

 血をにじませながらも、冷静さを失っていなかった女性は、最後の力を振り絞り、落ちていた果物ナイフを拾い上げて、数十メートル離れた勤務先の飲食店へと走った。

 飲食店に駆け込んだ女性は「刺された。助けて」と叫ぶと倒れ込み、驚いた同僚が即座に通報。女性が病院に搬送された後、床は血に染まっていた。

 ◆土地勘あり?

 県警捜査1課によると、女性が後ろから刺されたのは2カ所で、うち左脇腹の傷は肺まで到達。もう1カ所は左側の肩甲骨に当たって浅い傷で済んだが、もし骨からずれていたら動脈に達した恐れがあった。

 男の強固な殺意を認めた県警は、殺人未遂容疑で捜査。男は年齢が10代後半~30代くらい。身長170センチ前後の小太りで、肌は透き通るくらいの色白、ぽっちゃり顔だった。頭髪はセンター分け、少しくせ毛があった。歩くときには、左足に癖がある様子だった。

 男の姿は複数の防犯カメラで捉えられていた。徒歩で現場を離れた男は、JR相模線の線路脇にある目立たない小道で、それまで着ていた灰色のポロシャツからオレンジ色のTシャツへと着替えた。

 その後、今度はJR原当麻駅近くの店舗でペットボトルの飲料水を購入。このとき紙幣を出し、店員が釣り銭を用意している間も終始無言だったという。

 既に県警の緊急配備が敷かれ、周辺では大勢の警察官が血眼になって男の行方を追っていた。それでも男は慌てた様子を見せず、犯行から50分ほどが経過しても、現場から北西へ約1キロの寺付近を歩いていた。捜査関係者は「男は非常に土地勘がある。また、通常の精神状態とは思えない」と指摘する。

 寺の前を過ぎた男は、その後、何らかの形で自転車を確保し、逃走した可能性も浮上。その後、相模川に架かった昭和橋のたもとで、通行人の男性が、それらしき姿の男を目撃。この男は男性の2、3メートル手前を自転車で通り過ぎる際、目が合ってにやりと笑ったという。男はそのまま橋を渡り、対岸の厚木市に向かったとみられている。

 現場は相模原市南区の南西に位置し、同市中央区、厚木市、愛川町、座間市にも近い。いまやその捜査範囲は県下全域および東京都内に及んでいる。

 ◆「何で私が…」

 男の逃走を許した県警は、これまでに延べ約8千人の捜査員を投入。市民から寄せられた情報提供は約200件に上ったが、男の発見には至っていない。

 一方、捜査の結果、高い精度で男の識別が可能な試料を採取。凶器の果物ナイフは、数年前まで100円ショップで販売されていたことも分かった。逃走に使われた可能性のある自転車は前カゴがついているが、荷台はなく、車体のフレームは暗い色だった。

 現在、被害者の女性は生きがいだった飲食店の仕事を辞め、自宅で静かに暮らしている。季節の変わり目には傷痕が痛むといい、カウンセリングを受けながら「何で私がこんな目に遭わないといけなかったのか」と自問しているという。

 捜査を指揮する男性警部(50)は「引き続き捜査に全力を尽くしており、どんな些細(ささい)な情報でも遠慮なく提供していただきたい。県警のホームページに掲載してある防犯カメラの動画もぜひ見てほしい」と呼びかける。情報提供は、相模原南署(電)042・749・0110。

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