問われる日本社会の成熟度
日本を含め、国際的に大きな問題となっているイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」。この組織の台頭を歴史的・思想的背景から解き明かす『イスラーム国の衝撃』(文春新書)が話題になっている。著者でイスラム政治思想研究者の池内恵(さとし)・東京大准教授(41)に話を聞いた。
同書は先月20日の発売と同時に大きな反響を呼び、わずか2週間で発行部数10万5千部に達した。池内准教授は「1カ月で書き下ろした緊急出版だが、中身は10年来続けてきた研究の成果。専門家の知が、社会にうまく行き渡っていない状況に一石を投じたかった」と執筆の経緯を語る。
池内准教授がイスラム国誕生のカギとする政治思想が、米国の対テロ作戦で拠点や構成員を次々に失い、地下に潜った国際テロ組織アルカーイダが生んだ「グローバル・ジハード」というイデオロギーだ。「このイデオロギーは2段構えの構造で、まず対テロ戦が続く不利な状況下では被害を抑えるため組織を最小化し、小集団が先進国でばらばらにテロを行う形を取る。その典型が、フランスの風刺週刊紙襲撃事件」
そして第2段階として、イスラム圏が内戦などで混乱する好機が到来した場合、中央政府の統治が及ばなくなった場所に結集し、大規模に組織化したジハード(聖戦)を行うとする。イスラム国は、このイデオロギーを実践する形で成立した。加えて2011年の「アラブの春」で政権を獲得したイスラム主義穏健派の失敗、また宗派主義の広がりによる社会分裂などの要因が重なり、イスラム国の拡大を許したとみる。