世界は動乱の世となった。中露の大国主義と主権侵害、イスラム過激派の世界秩序への挑戦やテロ活動、欧州連合(EU)内の混乱と国家対立、これら諸問題に対する国連や米国の無力などは大方の予想外だった。近年は「グローバル化が進展する脱近代(ポストモダン)の21世紀には、近代(モダン)の国民国家とか主権や領土は意味を失う」という論が主流となったが、現実は逆だった。今や、主権国家の役割やその意義を見直す時だ。
国際秩序の混乱生む曖昧状況
1992年にF・フクヤマは『歴史の終わり』を著した。これは、根本的な対立の歴史は終わったという意味で、「今後は伝統的な主権国家の諸特徴の多くは消滅する」と予想した。そして、欧州共同体こそが歴史の終わりを象徴すると称賛し、ロシアはかつての拡張主義を捨て「小さなロシア」を選んだと言う。冷戦後欧州で国家主義(ナショナリズム)の抗争が高まる可能性もあるがそれは東欧やバルカンのことで、中国も経済主義的になって大国主義への回帰はないと予測した。しかし現実はこれら楽観的予測をほとんど裏切った。