重厚な演目が並んだ。昼。「金閣寺」から。名優たちが勤めた人気3役。松永大膳(だいぜん)の市川染五郎は大敵を妖気ふんぷんな知恵者風に。雪姫の中村七之助は、雨を帯びたる海棠(かいどう)のと大膳が執心する風情を知性美豊かに。此下東吉(このしたとうきち)の中村勘九郎は、実は真柴久吉である知略を秘めて。知力で競う三態の様式美を楽しむ。
続く「蜘蛛(くも)の拍子舞」が傑出した1幕。坂東玉三郎の白拍子妻菊、実は女郎蜘蛛(じょろうぐも)の精の端麗さ。扇→紅葉枝→手踊りと、渡辺綱の勘九郎、源頼光の七之助を左右に踊る拍子舞が絶品だ。扇の極まり、艶めく指先、浮き立つ四肢の躍動。後半、古蜘蛛になって隈(くま)どり形相のすさまじさも極彩色の牡丹(ぼたん)花に見えるほど。しばし呆然(ぼうぜん)の美しさだ。蜘蛛の白糸まきもきれい。染五郎が坂田金時で押し戻し。
最後に長谷川伸の新歌舞伎「一本刀土俵入」。松本幸四郎が人情芝居の醍醐味(だいごみ)を堪能させる。落ちこぼれの取的(とりてき)(下級の力士)、駒形茂兵衛がやはり落魄(らくはく)の酌婦、お蔦(中村魁春(かいしゅん))に夢をもらうが、しかし横綱ではなく、いなせな博徒で再会。流転の人生を幸四郎が絶妙に活写する。
夜。切りの舞踊「黒塚」が見物だ。老女岩手、実は安達原(あだちがはら)の鬼女で市川猿之助(えんのすけ)が心理劇風に静→動→乱と踊り分ける。2景、月明の芒(すすき)が原で欣喜雀躍(きんきじゃくやく)する舞が良い。初めに岡本綺堂作「番町皿屋敷」。中村吉右衛門(きちえもん)の青山播磨、中村芝雀(しばじゃく)のお菊で恋愛悲劇を近代視点で見せる。「女暫(おんなしばらく)」は玉三郎の器量、愛嬌(あいきょう)が満開。
26日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)