例えば、首相が政策として最も重視するものは何かと問われた岸氏は、こう明快に答えている。
「第一はね、いうまでもなく安全保障ですよ。(中略)それがなけりゃあ、経済の発展も、あるいは文教の振興もない」(中公)
これと同趣旨のセリフを、小泉内閣の官房副長官だったころの安倍首相から聞いたことがある。だからこそ首相は、左派系メディアの激しい批判を覚悟して集団的自衛権行使の限定容認に踏み切ったのだろう。
岸氏は昭和35年の日米安全保障条約改定時のことを、「日本がアメリカの核戦争に巻き込まれて、戦争になるというようなわけのわからん議論が盛んだった」(文春)と振り返る。集団的自衛権論議でも似たようなデマが流布されたことを連想してしまう。
「くだらない問題でしたが、『極東』の範囲なんていうのは、(議会対策で)苦労した格好になっているけれども、あれは愚にもつかなかったね」(中公)