壮絶なパワーハラスメントや「ブラック」と批判されたあの有名企業の業績悪化-。昨年は過労死・過労自殺関連のニュースが相次いだ。個別のケースを振り返ると、パワハラをした上司や安全配慮を怠った経営者についても個人責任が問われる傾向がうかがえる。11月には、過労死・過労自殺防止を国の責務と明記した「過労死等防止対策推進法」が施行された。今年こそ、職場環境の悪化に歯止めをかけられるのか。
手帳の言葉、揺るがぬ証拠に
「会社の代表者や当事者は全く謝りません。判決は、当然の結果だと思っています」。パワハラによる過労自殺で命を絶った新入社員の男性=当時(19)=の父親は昨年11月28日、会社側の責任を認めた福井地裁の判決を受け、こうコメントした。
男性は高校卒業後の平成22年4月、福井市の消火器販売会社に入社。わずか8カ月後の同年12月に自宅で首をつった。
24年7月、福井労働基準監督署が労災を認定し、父親は会社と当時の上司に計約1億1千万円の損害賠償を求め提訴。地裁は「上司の発言は指導の域を超えた人格否定で、典型的なパワハラだ」と指摘し、会社と当時の上司に計約7200万円の支払いを命じた。
決め手となったのは、男性が残した手帳だった。仕事を覚えるために持ち歩いていたのだろう。上司の発言内容を詳細に記していたのだ。
「辞めればいい、死んでしまえばいい」「もう直らないならこの世から消えてしまえ」。手帳には震えるような文字で、仕事の失敗をあげつらう上司の言葉が書き連ねてあった。
父親はこうコメントを続けている。「息子の死に顔には、険しい眉の跡だけが残りました。このような思いをするのは、私どもだけで十分です」