足踏みしている景気を早急に回復軌道に戻し、力強く持続的な成長につなげられるか。日本経済は今、その岐路に立っている。
消費税の再増税を先送りして得た時間を無駄にせず、確実に経済再生を果たす責務を、安倍晋三政権が負うのは論をまたない。
同時に問われるのは、民間の底力だ。政府に頼るばかりでは、国力の基盤となる「強い経済」の実現は到底望めまい。
足元の経済低迷に萎縮せず、長きにわたるデフレで染みついた縮み思考から完全に抜け出すことが肝要だ。日本型の新たな成長モデルを確立すべき時である。官民でその決意を新たにしたい。
≪内需主導で底上げ図れ≫
安倍政権の2年間で浮き彫りになったのは、デフレ下での構造の変化に伴う経済の脆弱(ぜいじゃく)さだ。
例えば、中長期的にどれほど成長できるかを示す潜在成長率は0%台半ばにとどまっている。
企業が設備や人員を削減するリストラを続け、モノやサービスを生み出す力が落ちたことが背景にある。建設現場やサービス業の人手不足は、持続的成長を阻む供給面の制約となっている。
輸出主導の成長にも多くは期待できなくなった。海外事業を展開する企業は、量的緩和に伴う円安で収益を高めたが、過去の円高局面で海外生産を増やしたため、輸出数量は伸び悩んだままだ。
かつてのように輸出頼みで国内全体が潤う状況ではない。裏を返せば、内需主導で経済を底上げできなければ、アベノミクスの恩恵は全国に行き渡らない。
これらを踏まえれば、今なすべきことは明らかである。
業績が改善された企業は、設備投資や研究開発で生産性向上、技術革新に全力を挙げてもらいたい。継続的な賃上げも不可欠だ。いつまでもデフレ時代の守りの経営を続けるわけにはいかない。
内需型の中小・零細企業が多い地方では、サービス業など地域に根ざした非製造業の収益力をどう高めるかがカギだ。高い成長を見込める産業はいくつもある。
例えば観光だ。昨年、訪日外国人は初めて1300万人を超えた。政府は地方創生の「総合戦略」で外国人旅行者の消費を年間3兆円に増やす目標を示した。円安も追い風だ。地域特性を生かす知恵や工夫を凝らしてほしい。
農業も生産から加工、流通・販売まで手がける6次産業化などで攻めに転じたい。地方が多様な産業を育成することが、安定した成長につながる。
言うまでもなく、こうした民間活動を成長戦略で後押しする政府の役割は大きい。昨年末に決まった法人税の実効税率引き下げはもちろん、やるべきことは多い。
首相には「岩盤規制」を打ち抜く実行力や、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉を妥結に導く指導力が求められる。安全性が確認された原発の再稼働も円滑に進める必要がある。
≪着実に成果積み上げよ≫
金融・財政政策と比べ、成長戦略が効果を発揮するには時間がかかる。平成29年4月の消費税再増税に耐え得る経済を実現するため、今から着実に成果を積み上げていく必要がある。
日本の課題の多くは欧米にも共通する。経済の長期停滞論が関心を呼び、所得格差も強く意識されている。特に欧州は、債務危機が峠を越した後も投資に力強さが戻らず、低成長とデフレ懸念が悩みの種だ。こうした問題への明確な処方箋は描き切れていない。
長びくデフレに苦しみ、少子高齢化に伴う人口減少問題に直面する日本は「課題先進国」である。その日本が新たな成長モデルを構築できるかどうかは、台頭が著しい中国経済に対し、先進国の成熟経済がどう対抗できるかを考える上でも重要な示唆を与えよう。
もうひとつ、成長を考えるうえで忘れてはならないのは財政再建との両立だ。消費税の再増税延期を決めた以上、成長による税収増に期待するだけでなく、歳出効率化を徹底すべきは当然だ。
政府は今夏、32年度の基礎的財政収支黒字化に向けた具体策をまとめる。財政を立て直し、社会保障制度を維持することは、経済の中長期的な成長を実現するために欠かせない基盤である。
個別分野ごとの痛みを伴う議論も、避けては通れない。衆院選で力を得た首相には、大胆な決断を求めたい。